第百二十九話 少女の異端な魔法戦8
「両者の決闘に先立ち、皇太子殿下よりお言葉を賜ります」
拡声の魔道具から聞こえてきた声に合わせて観覧客が全員起立し、レイリアとアトスも王族席へと体を向けると、王族席に座っていたエルディオが立ち上がった。
「この度の決闘は、皆も知る通り、我が王家を建国前より支える六侯家の者同士によって行われる決闘である。よってこの決闘は、皇太子である私が見届け人となり、その結果を広く皆へと保証する事とした。それとともに、ファルムエイドとゼピスには、この決闘の結果に対し、両家ともに遺恨無きよう取り計らうよう申し付ける。では、両者共に健闘を祈る」
エルディオはそう述べると、早々に椅子へと座った。
そして、エルディオに続く形で、観覧客が席に着いたところで、再び拡声の魔道具から案内が流れた。
「それではこれより、アトス=ファルムエイド、レイリア=ゼピスによる決闘を始めます。両名は以降審判の指示に従って下さい」
開始位置である円内にいる二人に、審判役である男性魔導士が言った。
「準備が整い次第、片手を上げて合図を送るように!」
特に準備が無いレイリアは、すぐに右手を上げた。
すると、レイリアを確認した審判の男性魔導士が驚いた顔をした。
「杖は使わないのかね?」
「使いません」
「では、もう準備は宜しいか?」
「はい。大丈夫です!」
「了解した」
とにかく身軽に、動き易く。
それがレイリアにとっては大事なので、魔術士の杖は使わない。
だが、一般的な魔術士からすれば、自分の魔力を増幅さる魔術士の杖は、魔法戦では必須の品だ。
対戦相手のアトスも、いつの間にか杖を手にしていた。
その杖は、アトスの身長に近い長さを持つ大きな杖で、一目見ただけで古代遺跡から見つかった遺物だろうと推測出来た。
杖自体は金色で、杖の上部には螺旋を描く様に小さな光の貴秘石が埋め込まれており、最上部の台座には、大きな光の貴秘石が嵌められている。
光の貴秘石は、日、水、風、土の貴秘石とは違い、地中を掘れば出てくる物では無く、今では古代遺跡からしか見つからない。
そんな貴重な光の貴秘石があしらわれている杖など、古代遺跡の遺物以外には考えられない。
(でも、父様が持っている聖奏の杖には敵わないわね!)
代々のゼピス家当主に受け継がれているあの光り輝く杖に比べれば、アトスの持っている高級そうな杖とて、レイリアにはやはり格下にしか見えなかった。
右手に杖を持ったアトスが左手を上げ、審判へ準備完了の合図を送ると、第四魔術士訓練場がドーム状の光に包まれた。
訓練場の外に魔法が漏れ出ないよう、魔道具を用いた魔法防御壁で訓練場が覆われたのだ。
これで決闘前の全ての準備が整った。
審判の男性が、右手に光属性を表す金色の魔力玉を作り出した。
そして、右手を勢い良く掲げ、光の魔力玉を空中へと飛ばした。
「始め!」
その声と共に光の魔力玉が弾け、ドームの上層部から光の花びらが幾重にもキラキラと舞い降りてきた。
皇太子による主催となり、建国祭に行われる少年剣術大会よりも確実に大仰な扱いとなってしまったレイリアとアトスによる魔法勝負が、今ここに幕を開けた。
決闘開始を知らせる派手な魔法の演出は、決闘を見にきた人々の心を一気に躍らせ、観覧席のあちこちから歓声が沸き起こった。
その中を、レイリアは勢い良くアトスへ向かって走り出した!
父や兄の話によると、魔法による試合や決闘で使われる魔法防御の腕輪は、上級魔法一回でヒビが入り、その次はどんなに弱い攻撃魔法を受けても壊れてしまうとの事だった。
ただ、中級魔法ならば、三回は耐えられると言っていた。
アトスは単体を狙う火の上級魔法が使えるらしいので、レイリアはその魔法を一回は浴びる覚悟をしていた。
とにかく腕輪が壊される前にアトスのもとへと駆けつけて、アトスに触れながら呪文を唱えられればレイリアの勝ちは確実だ。
そのためにも、アトスには開始早々得意な攻撃魔法では無く、発動に時間が掛かる魔法防御を唱えてもらい、レイリアが走る時間を稼ぎたかった。
だが、レイリアが走り出した瞬間、アトスが呪文を唱えた。
「フォルグ・クレスティナ!」
詠唱と同時にアトスの持つ杖が金色に光り、アトスの体を包む。
「なんで!?」
『フォルグ・クレスティナ』は中級魔法だが、一般的には扱いづらい光属性のなので、魔導士ほどの実力がなければ短時間での発動が難しい魔法だ。
それにもかかわらず、実力では魔導士には及ばないはずのアトスが、魔導士どころかファウスやカイと同様、魔力玉を作らず呪文を唱えて即座に魔法を発動させたのだ。
驚きながらも足を止めずにアトスへ向けて走り続けるレイリアは、アトスの持つ杖に嵌められた光の貴秘石が、先程までよりその輝きを弱めている事に気が付いた。
(杖の光の貴秘石に、光の魔力を貯めておいたのを使ったのね!)
杖の使用は禁止されていないとはいえ、杖に前以て魔力を貯めておき、それを決闘中に利用するのはいくら何でも卑怯なのでは?
レイリアがそう思っている間に、アトスが今度は赤い魔力を杖に集め出した。
その様子を見たレイリアは、火の攻撃魔法が来ると予想し、走りながら水の魔力を右手に集め始めた。
「ヴェルフェリオム!」
アトスが杖をレイリアへ向け、大きな炎の渦を生み出した。
「シェーラ!」
少しでも炎の渦の勢いを弱め、腕輪によって生み出されている魔法防御の損傷を減らそうと、レイリアは炎の渦に向けて水を勢い良く浴びせた。
だが、火の上級攻撃魔法である炎の大渦ヴェルフェリオムには、所詮下級魔法の水魔法シェーラでは太刀打ち出来ず、レイリアの呼び出した水はあっという間に蒸発し、炎の大渦は少し威力を落として炎の渦となってレイリアを襲った。
魔法防御によって守られているお陰で、レイリア自身は熱さも何も感じなかったが、左手首に嵌められている腕輪を見れば、金色に光る白い石の中央に、はっきりとヒビが入っていた。
(もう一回同じ魔法が来たら割れちゃうかも!?)
しかし、その心配は要らなさそうだ。
後ほんの数歩でアトスに届く!
(あとちょっと!)
目の前には、炎に巻き込まれながらも勢いを弱める事なく突っ込んできたレイリアに、驚きから目を見開いているアトスがいる。
そのアトスに向かって手を伸ばし、一歩、二歩、三歩と走り寄ろうとした時だった。
「うわっ!」
何も無い平らな地面で、レイリアは躓いた…。




