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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第百二十四話 少女の異端な魔法戦3

 一方ウィリスは、アイリーン=フォーン侯爵夫人と、フォーン侯爵家の長男であるディレイと共に、魔術士訓練場脇に急遽きゅうきょもうけられた観覧かんらん席にいた。


 リシェラニエ城へは、例え爵位持ちだとしても、未成年者のみでの入城が許されていない。


 そのため、職務から離れられないファウスは、姉のアイリーンにウィリスを預けたのだ。


 久しぶりに会ったアイリーンには、ここへ来るまでの間に、母親であるレイラの様子を中心に聞かれた。


 相変わらず元気であった事、パゼル山の火事ではお世話になった事を話すと、アイリーンは、

「お母様ったら、全く元気過ぎだわ」

と言って笑っていた。


 だが、レイリアがレイラに対する誤解をやっと解き始めた事を話すと、アイリーンはほっとした表情を見せた。


「あれは全面的に母が悪いのに、レイリアへ謝らなかったのがいけないのよ。何度も謝るよう言ったのに、母も頑固がんこだから、機会が無いとか色々理由を付けて謝らないでいたでしょ?それでどんどんレイリアは、母に対して態度を硬くしてしまったの。母はこのままレイリアに避けられ続けて一生を終えるのかと思っていたけれど、そうならずに済んで良かったわ」


「でも、レイリアはレイラ様を完全に許した訳では無いみたいですよ」


「それは仕方が無いわね。それだけの事を母はしたのだから」


「でもさ、これでお祖母様も心残りが無くなった訳だろ?もしかすると、安心し過ぎてコロッと亡くなったりするかもな」


 そう言って

「あははは…」

と笑うディレイに、アイリーンの鋭い声と視線が飛んだ。


「ディレイ、貴方はお黙りなさいっ!」


「申し訳ありません、母上」


 アイリーンの叱責しっせきに、一気に背筋を伸ばしたディレイを見たウィリスは、

(相変わらずこの人は残念な人だなぁ)

と、ウィリスは思った。


 ウィリスから見たフォーン姉弟の印象は、裏表の激しい黒いルルーリアと、残念だけれど善人なディレイだ。


 ウィリスが二人に対して最初にそう思ったのは、今から四年以上も前の事だ。


 ルルーリアは初対面こそウィリスとルッカに優しかったものの、二回目からは半分身内のような雑な扱いをしてきた。

 

 そして、ウィリスに向かってこう言った。


「ねぇねぇウィリス、絶対似合うと思うからドレスを着てみない?」


 もちろんウィリスは即座に断ったものの、ルルーリアのこの何とも迷惑な願望はしばらく消える事がなく、その日以降、ルルーリアは様々な手段を用いてウィリスをつかまえようとした。


 ある時はリシュラスのハーウェイ邸の中で堂々と待ち伏せし、またある時は、レイリアをおとりに罠を張り、最後は人海戦術でウィリスをらえようとした。


 小さなウィリスは毎回頑張ってルルーリアから逃げていたものの、当然逃げ切れない時もあった。


 だが、そういう時は決まってディレイが助けてくれた。


 お陰でウィリスは随分とディレイに懐いたし、ルルーリアがそのお嬢様らしい可憐な外見とは裏腹に、中身は黒い人間だと早い段階で気が付けた。


 結局この時は、ルルーリアの行動をディレイが母であるアイリーンに知らせたため、ルルーリアはフォーン侯爵夫妻からこっぴどく叱られた上に、暫くの間ウィリスへの接近禁止が言い渡された。


 こうして平穏な日常を取り戻したウィリスだったが、正直ディレイにはもっと早く侯爵夫妻にルルーリアの悪行を知らせて欲しかったと、ウィリスは思った。

 

 後日ディレイにこの話をすると、ディレイからは、

「何気に二人とも、あの追いかけっこを楽しんでいるのかなぁと思って、なかなか母上に言い出せなかったんだ」

呑気のんきそうな笑顔で言われてしまい、ウィリスは心の中で、

(そんなことある訳ないだろっ!)

と突っ込みながら、ディレイという人物の残念さを思い知らされた。


 そして今から約三年前。


 ルルーリアが幼い頃に決められた婚約者との婚約を破棄した直後、なんと皇太子のエルディオと婚約するという、衝撃的な出来事が起こった。


 元々ルルーリアは、婚約相手であった六侯家の一つ、バルロック家の長男のイルを気に入っておらず、ゼピス兄妹やハーウェイ姉弟の前でさえ、

「いつかこの婚約を破棄してやる!」

と怪気炎を上げていた。


 そのため、そう遠く無い未来にこの婚約は無くなるだろうと、ディレイを含めた五人は予想していた。


 ところが、ルルーリアとイルの婚約は、思わぬ形で破棄される事となった。


 真実の愛を手にしたらしいイルが、ルルーリアに婚約破棄を申し出たのだ。


 ルルーリアは、さもイルの幸せを願って身を引いた女を演じながら、イルとの婚約破棄を受け入れた。


 世間はルルーリアの心優しさを褒め称え、イルの不貞を非難した。


 しかし、身内や一部の者は知っている。

 

 イルの相手は、ルルーリアが用意した令嬢だと。


 長年イルの婚約者をしていたルルーリアは、イル好みの令嬢を探し出して知り合いになると、それからその令嬢を自然な形でイルに紹介した。


 自分の理想とする女性に出会ってしまったイルは、あっという間にその令嬢のとりこになった。

 

 そして、二人の仲が深まり、既成事実が出来上がると、ルルーリアは嬉々(きき)としながら揃えた不貞の証拠をたずさえて、バルロック家へ婚約破棄を申し出ようとした。


 ところが、ルルーリアが婚約破棄へと動き出すより前に、イルの方からルルーリアへ婚約破棄を申し出た、というのが真実だった。


 この裏事情を知っていたからこそ、イルとの婚約破棄から三ヶ月も経たないうちにルルーリアが皇太子と婚約したと聞いたウィリスは、

(皇太子殿下は、あの女の見た目にだまされているんだ…)

と、思ってしまった。

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