第百二十三話 少女の異端な魔法戦2
こうしてエルディオが部屋を去ると、扉近くまで夫を見送っていたルルーリアが、不気味な笑い声を上げながらくるりと振り返った。
「ふふふふふ…。さぁ、邪魔者は消えたわ!作戦会議を開くわよ!」
夫を追い出し、やる気満々にそう宣言したルルーリアは、目を輝かせてカイを見た。
「で、私の役目は他には無いの?」
意気揚々と尋ねてくる従姉に、カイは
「うーん」
と一つ唸って言った。
「ルル姉上には出来ればファルムエイド側に行って、情報を流してきて欲しいかなぁ」
「それって情報操作をするって事ね!了解!それで、どんな情報を流してくれば良いのかしら?」
「レイリアがアトスを倒すためにとても強力な魔法を覚えたらしい、と触れ回って欲しいのです」
カイの言葉に、ルルーリアがきょとんとした顔になった。
「でもそれって、本当の事でしょ?」
不思議そうに小首を傾げるルルーリアに、カイがニヤリと笑った。
「本当の事だからこそ、向こうは必要以上に警戒するとは思いませんか?」
「つまり、アトスにレイリアを必要以上に警戒させれば良いのね」
ルルーリアがそう言ってニヤリと悪い笑みを浮かべると、カイもルルーリアに似た黒い笑みを見せた。
「そうです。あいつは基本、初手から敵に攻撃魔法を撃つのが好きですが、自分より明らかに強い魔術士と戦う時だけは、魔法を防ぐ魔法、つまりフォルグ・クレスティナを先に使います。出来れば今回もそうさせたいのです」
「でもそんなを事したら、レイリアの魔法が防がれない?」
「今回レイリアが使う予定の魔法は、どんな魔法でも防ぎきれない魔法です」
カイの説明に、ルルーリアが目を丸くした。
「そんな凄い魔法があるの?」
「えぇ、あるんです」
「どんな魔法?」
見るからにワクワクしているルルーリアに、カイが
「聞きたいですか?」
と尋ねれば、
「もちろんよ!」
とルルーリアが答えた所で、レイリアが二人の会話に割って入った。
「ねぇ。戦う前からこうやって罠を張るみたいなやり方って卑怯じゃない?」
「は?何言ってるの?」
「は?何言ってるんだ?」
兄と従姉の二人から同じ言葉を返されたレイリアが
「え?」
と一瞬たじろぐと、そこへルルーリアがさも当然といった顔をしながら説いてきた。
「あのね、レイリア。戦いっていうのは、剣や魔法や魔導銃でただ殴り合うだけでは無いの。情報戦って分かる?戦いを有利に進めるために、味方の役に立つ情報を集めたり、敵を混乱させるために偽の情報を流したりするのも、勝つ為に必要な立派な戦い方の一つなの。だからこれは全然卑怯な事では無いわ」
「ルル姉上の言う通りだ。戦いに於いては、情報を制した者が強者になりやすい。これは勝つ為の正当な戦い方であって、卑怯でも何でも無い」
年上の二人に真っ向から自分の意見を否定されたレイリアは、自分の意見が間違っていた様な気持ちになってきた。
「本当にこれって卑怯な事では無いの?」
そう言ってカイとルルーリアを見ると、二人は揃って頷いた。
「大丈夫よ!これは正当な戦い方の一つだから、レイリアが卑怯呼ばわりされる事は無いし、私がそんな事をさせ無いわ!」
ルルーリアの言葉の最後の部分に、レイリアは若干引っ掛かりを覚えたものの、二人が卑怯では無いと言うのならば、きっとそうなのだろうと、自分自身を納得させた。
「ルル姉上、そろそろ皇太子殿下の元へいらっしゃった方が良くありませんか?」
このままだとずっとここにいそうな気配を漂わせているルルーリアに、カイがそれとなく退出を促した。
「え?でも、まだ、レイリアがどうやって勝つつもりなのか聞いていないのだけれど?」
「残念ながら父上とお祖母様から口外するなと言われていますので、ルル姉上にもお伝え出来ないのです」
「お祖母様とファウス叔父様の命令ならば、仕方が無いわね…」
「それに、ルル姉上にはファルムエイド側へ行って、先程お願いした件を実行して頂かないといけませんし」
カイの言葉に、しょんぼりしていたルルーリアがはっとした表情になった。
「そういえば、そうね!アトスにレイリアが凄い魔法を使えるようになったって、言ってこないと!」
「そうです!姉上にしか出来ない重大な任務です!」
「分かったわ!私に任せて!それじゃあレイリア、絶対に勝ちなさいね!!」
カイに煽てられたルルーリアは、最後に笑顔でレイリアに圧力を掛けると、意気揚々と控室から出て行った。
その後ろ姿を見送ったカイが、ポツリと言った。
「未だにどうしてあの人が皇太子妃になれたのかが分からない…」
表向きのルルーリアは、可憐な見た目でありながら性格は社交的なため、成人前より多くの若い男女から羨望の眼差しを集める存在だった。
だが、ルルーリアの真の姿は、我儘で自分勝手な毒舌お嬢様だ。
ただ、それを知るのは身内とごく一部の人々で、そのごく一部に入っているはずのエルディオが、どうしてルルーリアを伴侶に選んだのかがカイには分からなかった。
(うちのはお転婆程度だけれど、あっちの中身は暴れ馬だからなぁ…)
レイリアを見ながらそんな事を考えていたカイに、レイリアが言った。
「人の好みってそれぞれだもの。エルディオ殿下がルル姉様を好きって言うなら、それで良いのよ」
「…。まぁ、そうなんだろうなぁ…」
ある意味恋心の真理を突いたレイリアの発言に、カイは目の前の妹に片想いし続ける弟分を、つい思い出していた。




