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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第百二十二話 少女の異端な魔法戦1

 その日、ルタルニア王国のリシェラニエ城内にある魔術士訓練場には、多くの人々が詰め掛けていた。


 彼らの目当ては、あのゼピス家の変わり者の令嬢れいじょうと、ファルムエイド家の令息れいそくとの間で行われる、魔術による決闘だった。


 そもそもこの決闘は、三週間ほど前に起こったファルムエイド令息とゼピス令嬢が巻き込まれた事件が発端ほったんだった。


 この事件により怪我を負ったゼピス令嬢に対し、ファルムエイド家側が、令息に責任を取らせる形で令嬢をめとりたいとゼピス家側に申し入れた。


 しかしながら、ゼピス令嬢はこの婚姻の申し込みを拒絶した。


 だが、この令嬢の意思表示に対し、救国の英雄であり、前ゼピス家当主であるレイラ=ゼピス前公爵婦人が異を唱えた。


 国を支える六侯家ろっこうけ内の絆を深めるためにも、ゼピス家とファルムエイド家が繋がりを持つことは望ましい事である、と。


 そこで、レイラ=ゼピスが提示したのは、ファルムエイド令息が魔法による勝負でゼピス令嬢に勝てば、ゼピス令嬢との婚姻を現当主であるファウス=ゼピスに認めさせるというものだった。

 

 ただし、ゼピス令嬢がファルムエイド令息に勝利した場合には、ファルムエイド家は今後一切ゼピス令嬢に対して婚姻を申し込まない、という誓約せいやくをしなければならなかった。


 この魔法による勝負の話が世間に出回ると、社交界の注目は一気にこの勝負の行方へと注がれ、多くの人々がこの勝負の観戦を望むようになった。


 その中には、レイリアの従姉であり皇太子妃となったルルーリアと、その夫である皇太子エルディオがいた。


 そして、この二人が興味を示した事で、この勝負は王家預かりの勝負となり、リシェラニエ城内にある魔術士訓練場が決闘場所として指定されたのだった。


「という訳で、お祖母様の指示通り、魔術士訓練場の中で一番小さい所を決闘場に指定したのだけれど、実際勝てそうなの?」


 城内に用意されたレイリア用の控室には、当事者であるレイリアの他、保護者代わりの兄のカイ、そして皇太子妃のルルーリアとその夫である皇太子のエルディオがいた。


「大丈夫、だと、思う…」


 曖昧あいまいな笑みを浮かべながら、自信があるのか無いのかよく分からない答え方をしたレイリアに、ルルーリアはおでこをくっ付けた。


「しっかりしなさい、レイリア!そんな弱気では、勝てる戦いも勝てないわ!それに、アトスと親戚になるなんて、わたしいやよ」


 レイリアの心配にちゃっかりと自分の希望も上乗せして叱咤激励しったげきれいを繰り出してきたルルーリアに、レイリアは

「分かってる」

と頷きながら答えた。


 だがその様子を隣では見ていたエルディオが、なげく様に言った。


「ルル、頼むから皇太子妃が次期六侯家当主を嫌いだとか、はっきり言わないでくれ」


「殿下、御心配には及びません。この部屋には防音の魔法を施していますので、会話が外には漏れ出る事はありませんよ」


「いや、聞こえなければ良いという事では無く、私が言いたいのは心構えの問題でだな」


 外向きの笑顔を浮かべているカイに、エルディオが王族としてまともな意見を口にすると、ルルーリアがうんざりとした顔をした。


「あら、王族が六侯家の悪口を言ってはいけないなんて、私、妃教育で習っていないけれど?」


「私しか居ない所でならば多少は構わないが、他の者が居る所では、万が一を考えて控えて欲しい」


「万が一を考えるってどういう事?まさかこの二人が、今私が言った事を他人に言うとでも思っているの?」


「いや、そういう訳ではないが…」


「だったら大丈夫よ。私達全員アトス嫌いだし。ね?」


 にっこり笑顔で同意を求めてきたルルーリアに、レイリアは真顔で頷き、カイは半分笑いながら

「否定は出来ませんね」

と答えた。


「ほら!私達、運命共同体だわ!」


 嬉しそうにそう言ったルルーリアへ、エルディオが困り顔を見せた。


「そんな運命共同体に、私を巻き込まないでくれ」


「それじゃあ、あなたは仲間外れね」


「妻から除け者にされるのは、ちょっと納得いかないなぁ…」


 エルディオはそう言うと、ルルーリアへと近づいた。


「でもルル、私達は本来この勝負に対して中立でなければいけない立場だ。それにもかかわらず、私達は既にレイラ様の望まれた場所を会場として用意した。流石にこれ以上は、ゼピスに肩入れ出来ない。分かって欲しい」


「えぇ、もちろん分かっているわ。でもこの部屋の中だけでも、妹を思う優しい姉でいさせて欲しいの…」


「ルル…」


「だからお願い、エルディオ。私達二人が揃ってここにいたら、きっとファルムエイド家の気分を害する事になると思うから、あなただけでもファルムエイド家側にいてもらえないかしら?」


 ルルーリアが胸の前で両手を握りしめ、上目遣いでお願いすれば、エルディオは仕方が無いといった顔で、一つ息を吐いた。


「分かった。では、私は先にファルムエイド側へ行く。ルルも親戚だからといって、あまりこちら側に長居しては駄目だ。いいね」


「えぇ、ありがとうエルディオ。すぐに私もそちらへ行くわ」


「では、レイリア嬢、君の健闘を祈る」


「ありがとうございます、殿下」


 礼を述べて頭を下げるレイリアの横で、カイもこうべを垂れた。

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