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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第百十三話 祖母と孫娘5

 ようやく魔導車がハーウェイ家の墓所の入り口に到着すると、墓所内へはウィリスとエルマーのみが入っていった。


 鉄柵てっさくで覆われたハーウェイ家の墓所は、入り口から奥の霊廟れいびょうへと石畳の通路が敷かれており、その通路の両側は、綺麗に刈り込まれた芝生しばふが広がっている。


 緑の中の灰色の道を、ウィリスを先頭に縦に並んで歩けば、すぐに白い石で建てられた霊廟れいびょうへと辿たどり着いた。


 霊廟前で軽く一礼したウィリスがその場所をエルマーに譲ると、エルマーは霊廟を前にして軽く目を閉じた。


 エルマーがグエン達が亡くなったと知ったのは、グレナでの事件から数ヶ月が経った頃に送られてきた、レイラからの手紙でだった。


 任務によって多くの人の死に接し続けてきたエルマーは、最近では人の死に対してあまり心が動かなくなっていたが、自分の昔を知るグエンとルーナの死には、流石さすがに心が痛んだ。


 事件の経緯いきさつについてもある程度知る事は出来たが、教団上層部の一翼を担う立場からは、他国のお家騒動に手出しは当然出来るはずもなく、歯痒はがゆい思いをするのみだった。


 だが、目の前でウィリスから立ち昇るあの濃紫こむらさきの力を確認した以上、この案件は教団が手も口も出せるようになった。


 何故なら、このフロディア大陸内において発生した魔族絡みの事件は、大陸内の各国との取り決めにより、フロディア教団にも捜査・処断権限があるからだ。


(ご子息に呪術を掛けた魔族を探す過程で、事件に関する証拠を見つけられれば良いが…)


 ゼピス家でさえ見つけられなかった事件の首謀者に繋がる確たる証拠も、人の心に入り込み、真実のみを語らせる事が出来るエルマーがいれば、いずれは見つけ出せるだろう。


 但し、証拠に関わる人間が生きていればだが…。


 エルマーはそこまで考えると、一旦深呼吸をしてから目を開いた。


 そして、右手を左肩に乗せてフロディア教の祈りの姿勢をとると、死者をとむらう祈りの言葉をつむいだ。


「天にまします我らが女神、フロディアよ。尊き御身おんみの名の下に、われの願いを受け入れ給え。我が願うは、女神の御許みもとに召されし雫の平安なり。どうか女神の御慈悲をたまわらんと、願い捧ぐは我が心、我が祈り、我が全てなり」


 エルマーは祈りの言葉を唱え終わると、右手を額に当てた。それが祈りを終える合図だ。


「ありがとうございます」


 いくら父と母の昔の知り合いとはいえ、司教位を持つ青の聖騎士の、それも第一位の人物に祈りの言葉を捧げてもらえたのだ。


 フロディア教の信者として、これ程ありがたい事は無い。


 ウィリスはそう思ったからこそ、エルマーへと心を込めて感謝の意を表した。

 

 すると、霊廟れいびょうに目を向けていたエルマーが、ゆっくりとした動作でウィリスの方へ向き直った。


「そう言えば、先程の返答をまだしておりませんでしたね」


 エルマーからそう話されても、ウィリスは何についての返答なのかが分からなかった。


「返答、ですか?」


「私の事を、兄の様な存在と思っても良いかという話です」


 車内での話をまさかここで蒸し返されるとは思わず、ウィリスは慌ててしまった。


「あぁ、いえ、あれはやはり、あまりにも失礼な話でした。申し訳ありません」


 だが、ウィリスの謝罪の言葉にかぶせる様に、エルマーが言った。


「構いませんよ」


「え?」


「兄の様に思って頂いて、構いません」


 エルマーのこの言葉に、ウィリスがパッと顔を明るくさせた。


「本当ですか!?」


「はい。ただ、兄では無く、出来れば姉の様に思って頂ければと思いますが」


「姉、ですか?」


 きょとんとした表情を向けるウィリスに、エルマーはいつもの通りの無表情で淡々と告げた。


「はい。私は女ですので」


 このエルマーの告白は、ウィリスのこれまでの人生の中で、一番の驚きをもたらす出来事となった。


 そして、驚き過ぎて頭の働きが一時的に止まってしまったウィリスは、

「これは、今まで大変なご無礼を…」

と口にするだけで精一杯だった。


 そんなウィリスを気に留めるでもなく、エルマーは静かに言った。


「私の性別に関しては特に隠し立てしている訳ではありません。だからといって、わざわざおおやけにする必要もありませんので、基本的には尋ねられない限り、お伝えはしていません。ですので、多くの方は私を男だと思っているでしょう」


「申し訳ありません。私もその、男性だと思っておりました…」


 ウィリスが混乱する頭を抱えたまま、今日何度目となるかも分からない謝罪の言葉を口にすると、エルマーはフッと微かに笑んで言った。

 

「では、そろそろ参りましょう」


 そよそよと吹く少し冷たい山風が、サラサラという草木の葉擦れと、遠くで鳴く鳥の声を運ぶ中、二人は墓所外で待たせている魔導車へと歩き出した。

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