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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第百十一話 祖母と孫娘3

 レイラにとり、あの日幼いレイリアにした行いは、人生の中でも五本の指に入るほど後悔してもしきれない行いだった。


 何せ、幼い子供が衝撃で意識を失うほどの魔力を、レイラは怒りに任せてレイリアへと投げつけてしまったのだ。


 この出来事は当然ながらファウスの怒りを買い、レイラはファウスによって、リシュラスのゼピス邸への出入りを二年以上禁じられてしまった。


「あれは、そうね…。私は確かに貴女の事が許せなかったの」


 レイラの言葉に、レイリアはフッと小さな乾いた笑みを浮かべた。


「ほらやっぱり、お祖母様は私の事を…」


 そう口にし始めたレイリアを、レイラが慌ててさえぎってきた。


「違うのよ。貴女の事が嫌いだからそうしたという事では無いの」


「では、どうして?」


 レイリアに問いに、レイラは一度深呼吸をすると、逆にレイリアへと尋ねた。


「あの時、貴女、私に何と言ったか覚えていて?」


「魔術士ではなく、剣士になりたいと言ったと思います」


「そうね。そうとも言っていたわね」


 『そうとも』という事は、レイリアはそれ以外の部分で何かレイラを怒らせるような事を言ったのだろう。


 だがレイリアは、五年以上も前に言った言葉なんてもちろん覚えていなかった。


「貴女はね、私にこう言ったの。『魔法は役に立たない』と」


 レイラから告げられた過去の自分の言葉に、レイリアは何故そんな事を言ったのか、何となく思い出した。


 恐らくあの時の自分が言いたかったのは、『魔族に対しては魔法は役に立たない』という意味だ。


 しかし、偉大なる魔術士である祖母には、魔法を全否定したかのような孫の発言が許せなかったのだろう。


 レイリアがそう思い納得しかけた時だった。


「貴女の言葉は、魔族に対するものだと分かっていたわ。分かっていても、それでも許せなかった…」


 正直、レイリアはこの言葉を聞いた瞬間、『魔族に対してでも、魔法は役に立たないと言ってはいけないのですか?』と、レイラに尋ねてしまいたかった。



(つまり、お祖母様に向かって魔法を否定するような事は、どんな内容でも言っては駄目、と…)


 レイリアは、心の中のレイラ対応一覧に、しっかりこの事を書き足した。


「私は今まで何人もの魔族と戦い、その度に多くの人々を魔法で守り、救ってきたの。だからこそ私には、私の魔法のおかげで人は魔族と戦えるのだという自負があった。でも、そんな私に向かって貴女は、魔族に魔法は役に立たないと言ってきたの。たとえ事情を知らない子供の言葉とはいえ、魔法と共に生きてきた私には、私のこれまでの人生と誇りを傷つけられたようで、許せなかった…」


 あの時レイラが何故なぜあれ程怒っていたのかをようやく理解できたレイリアは、素直にレイラへと謝罪の言葉を口にした。


「ごめんなさい、お祖母様…」


 だがレイラは、レイリアに対してゆっくりと首を振った。


「いいえ、違うわ。貴女は悪くないのよ」


(今までの話を聞く限り、お祖母様が私にお怒りになったのは仕方が無いと思うのだけれど…)


 それでも『貴女は悪くない』と言うレイラに、レイリアは何と言葉を掛ければ良いのか分からなくなった。


「あの時ファウスに言われたの。母上は何のために魔法を使うのかと。私は答えたわ。大切な者達を守るために魔法を使うのだと。そうしたら、ファウスはこう言ったの。貴女の大切だと思う者の中に、私の娘は含まれていないのですね、って…」


「……」


「私は、息子に言われてやっと気付いたの。自分がどれ程愚かな行いをしてしまったのかと…。守るべき大切な貴女を、私は誇りとしていた魔法で傷つけた…。私は自分の誇りを傷つけられたと思い、その怒りを貴女にぶつけてしまったけれど、あの瞬間、本当は私自身が一番自分の誇りを傷つけていたの…」


「……」


「だから私は、貴女にずっと謝りたかった。でも、リシュラスからラバルーズへ戻ってからはなかなか貴女に会えなくて、次に会った時には、貴女は私の姿を見るだけでおびえてしまっていた。そんな貴女を怖がらせたくは無くて、私はしばらくの間、貴女の目に触れないようにしていたわ。そうしてやっと貴女が私に怯えなくなった頃には、あの日から随分と時が経っていて…。結局私は貴女に謝る機会を逃したまま、今まで来てしまったの」


 俯きがちに話し続けていたレイラは、そこで一旦言葉を区切ると、その細く皺の多い手を伸ばし、そっとレイリアの手を包み込んできた。


「ごめんなさい、レイリア…。貴女があの日の事で、こんなにも傷付いているとは思わなくて…。愚かな祖母を、許してちょうだい…」


 哀れみを誘うような表情を浮かべながら見つめてくる祖母に、レイリアは何と答えるべきかを考えた。


 五年半以上抱え続けていたレイラへの疑問は、これで解けたのかもしれない。


 だからと言って、この五年半、いや、母のシェリアが亡くなった時から六年以上続くレイリアのレイラに対する苦手意識が、そう簡単に消える訳が無い。


 それでもレイリアは、これから少しずつでも祖母との関係が良くなりますようにと願ってこう言った。


「もちろんです。お祖母様」

と…。

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