第百十話 祖母と孫娘2
「そんな事も分からないの?魔力の制御もまともに出来ない貴女が、そう簡単に大きな魔力の流れを変えられる訳が無いでしょう?」
その口振りと向けてくる視線には、過去のレイラとのやり取りと同じく、レイリアへの侮蔑が含まれているような気がしてならない。
(今回グレナに来てからは、今までよりもお祖母様と話せたし、少しは好きになってもらえたかもって思っていたけれど、世の中そんなに甘くは無いわよね…)
いつもいつも、そうだった。
『そんな事も出来ないの?』
『そんな事も分からないの?』
『どうして貴女は……』
レイリアの中でレイラから掛けられる言葉は、昔からほぼこの繰り返し。
顔を合わせればレイリアを否定し、叱りつけてくるだけ。
褒められた記憶は、ほとんど無い。
すぐ目の前にいるいるけれど、血も繋がっているけれど、いつも遠くにしか感じなかったその存在は、きっとレイリアの事をこう思っているに違いない。
「お祖母様って、本当に私の事がお嫌いなんですね」
レイラからすれば、何の脈絡も無く唐突に告げられたからだろう。
レイリアの目に、唖然としたままま固まるレイラの姿が映った。
(あ、言っちゃった)
それはまるで、日常会話の延長のように、何気ない口調で零れ落ちた言葉だった。
「貴女、突然何を言っているの?」
レイラが目を見開き、驚きの表情のまま尋ねてきた。
言ってしまったものは仕方がない。
レイリアはそう開き直ると、この際だから、ついでに心の中に溜め込んできたレイラへの想いを全てぶち撒けてやろうと決めた。
「だってお祖母様は、昔からディレイ兄様や、ルル姉様や、兄様にはそんなに厳しくなかったですけれど、私にだけは、昔からいっつも厳しかったではありませんか。私が剣士になりたいと言った時なんて、それはもう、物凄くお怒りになられたし。しかもあの日から暫くの間、お祖母様は私の事なんて存在しないかの様に扱っていらっしゃいましたよね?その後は、私を目にする度に怒っていらっしゃいましたし。まあ、それも仕方の無い事なのかもしれませんねー。もともと気に入らなかった孫が、お祖母様の望まれた魔術士としての人生を歩まないと言い出したのですから」
諦めと皮肉を込めて語るレイリアに、レイラは戸惑いながら答えた。
「それは誤解です、レイリア。私にとってはルルーリアも、ディレイも、カイも、貴女も、皆大事な孫達です。誰一人として特別では無いですし、誰一人として厭う存在ではありません」
だがそんなレイラの言葉に、レイリアは嘲笑うように応えた。
「別にそんな嘘を仰らなくても結構ですよ、お祖母様。私の事が嫌いなら嫌いだと、もうはっきりと仰って下さい」
「私は貴女を嫌ってなどいませんよ」
「では、どうしていつも私の事ばかりお叱りになられるのですか?」
その水色の瞳に静かな怒りを湛えるレイリアに、レイラは出来る限り落ち着いた口調で話しかけた。
「ルルーリアもディレイも、フォーン侯爵家の人間です。いくら孫とはいえ、ゼピスの私がフォーン家のやり方に口出しする訳にはいきません。それでも目に余る行いをした場合には、きちんと叱りつけてきたつもりです。カイは幼い頃から要領の良い子でしたからね。確かにあの子を叱った回数は、孫の中では一番少なかったかもしれません。貴女の場合は、何と言えば良いのかしら?考え方も行いも、小さな頃から突拍子無くて…。見ていて本当に心配で、心配し過ぎからつい色々と口が出てしまったのです」
ファウスの妻であるシェリア亡き後、レイラはシェリアの代わりにカイとレイリアを立派な紳士、淑女に育てなければという使命感を抱えてリシュラスへとやって来た。
だがそんなレイラの前に現れた孫娘は、レイラが頭を抱えたくなるほど自由奔放な少女に育っていた。
(このままではこの子は、母親が居ないからまともな淑女に育たなかったのだと、後ろ指を指されしまう…)
そう心配したからこそ、レイラはレイリアを厳しく躾けていた。
一方、厳しく躾けられていた側のレイリアは、レイラがそんな思いを抱えながら自分に接していたとはもちろん知らない訳で、
『心配だからつい口が出た』
と言われても、
『そうだったのですね。分かりました』
とは言えなかった。
何故ならば…。
「私の事が心配だと仰るのでしたら、お祖母様はあの日、どうして私にあんな事をなさったのですか?」
レイリアの冷ややかな眼差しが、レイラへと向けられる。
「あの日?」
「私が剣士になりたいと言った日、お祖母様はお怒りになって、私に魔力をぶつけてきたではありませんか?」
レイリアの言った『あの日』がどの日を示すのかを理解したレイラは、思わず
「あぁ…」
というため息混じりの声を漏らした。




