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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第百七話  魔法だから出来ること10

 心の中で、燃え続けている多くの樹々や地面が氷で覆い尽くされていく場面を想像しながら、えて魔力玉を作らず呪文を唱える。


「イクロス!」


 レイリアが魔力をまとわせた右手を、左から右へ振り払うように移動させると、青い魔力が大量の細かな粒子となって舞い散った。


 空中を漂っていた青く輝く粒子りゅうしは、木や地面に触れると一気にその表面を氷でおお)っていき、目に入る風景をあっという間に氷一面の世界へと変貌へんぼうさせた。


「おおぉ!」


 背後から歓声にも似た声が幾重いくえも上がった後、幾人いくにんもの人々がレイリアをたたえてきた。


「凄いな!」


流石さすがだ!」


「素晴らしい!」


「やはりゼピスの方なだけありますな」


 そんな声を耳にしたレイリアは気を良くすると、両手を腰に当て、完全なるドヤ顔をウィリスへと向けた。


「フフン。どうよ、ウィル?」


 するとそこには、唖然あぜんとした顔で目の前の氷の世界を見つめているウィリスがいた。


「え?あぁ、うん…」


 レイリアが話し掛けると、ウィリスはちらりとレイリアを見ただけで、すぐにまた正面を向いてしまった。


 様子のおかしいウィリスに、一体どうしたのだろうかとレイリアが思っていると、ウィリスはポツリと呟く様に言った。


「凄いね、レイリアは…」


「は?」


 お茶に関して以外、あまりウィリスから褒められた記憶の無かったレイリアは、ウィリスからの褒め言葉に思わず動揺した。


「一瞬でこんな風に世界を変えられるなんて、凄いよ…」


 ウィリスはそう言いながら、微動だにせず、ただずっと凍った世界を眺めていた。


 そんなウィリスを目にしたレイリアは、こう思った。


 もっとウィリスを驚かせてみたい!、と。

 

 いまだ燃え続ける場所は、ぱっと見ただけでも先程火を消し止めた場所の数十倍はあるだろうが、残った魔力は今使った分の百倍以上は軽くある。


(もし残りの火事の場所を一気に全部氷漬けにしたら、ウィルはどんな反応をするかしら?)


 ウィリスが今以上に驚くとしたら、どんな風に驚くだろうか?


 もしかすると、先程以上の褒め言葉をあのウィリスが口にするかもしれない。


 そう思うだけで楽しくなってきたレイリアは、今思い付いた事をすぐに実行してみたくなった。


 やる気を出したレイリアが、赤々と燃える森の奥を目指して勢い良く一歩を踏み出すと、凍った地面がザクリと音を立てた。


 その音に反応したウィリスが、急いでレイリアの隣にやってきた。


「レイリア、魔力は大丈夫?」


「今のを百回以上出来るくらいは残っているから、大丈夫よ」


「それならいいけど…」


 そう言って心配そうな表情を浮かべるウィリスに、レイリアは元気良く言った。


「さぁ!残りの火もサクッと消して、早く村に帰りましょ!」


 そのレイリアの元気さに、ウィリスはむしろ不安になった。


 宵闇よいやみの中、レイリアがサクサクと氷を踏み締めながら進んで行くと、再び炎が燃え盛る世界が現れた。

 

(ふふふ…。見てなさいウィル。この火を全部一気に消して、そのまし顔をさっき以上の驚き顔にしてやるんだから!)


 目的が、今や山火事を消す事からウィリスを驚かせる事に変わってしまったレイリアが、炎の壁を前にニタリと笑んだ。


 そして、先ほどと同じ様に山火事を氷で覆って消す光景を想像しながら、今度は水属性の魔力玉を作り始めた。


 すると、そのレイリアの様子を見ていたウィリスが、レイリアに尋ねてきた。


「ねぇ、レイリア。さっきノーマンから魔力の多すぎで魔法が失敗するって言われたのに、どうしてまた魔力の玉を作ってるの?」


 魔力玉作りに神経を集中していたレイリアが、一旦その作業を止めてウィリスの質問に答えた。


「今度はね、さっきよりも広い範囲の火を消そうと思っているの。でもそうなると、さっきよりも魔力を沢山使うでしょ?だから魔力玉を作っているの」


(さっきよもり広い範囲っていうのは、燃えている所全部だけれどね!)


 内心ニヤつきながら答えたレイリアに、ウィリスは

「ふーん」

とだけ答えると、レイリアの側から離れてルッジと何やら話始めた。


 ウィリスの様子を見るに、どうやらウィリスはレイリアの言動に特に違和感や疑問を感じていないらしい。


(落ち着いていられるのも今のうちよ。ふふふ…)


 ウィリスが見ていないのを良い事に、黒い笑みを浮かべたレイリアは、会話の間止めていた魔力玉作りを再開した。

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