第百四話 魔法だから出来ること7
「心配しなくても大丈夫。それくらい自分の魔法で治せるから」
まるで何の問題も無いかの様なすまし顔のレイリアへ、すかさずウィリスが問い掛けてきた。
「君の魔法じゃ治せないほどの火傷を負うかもしれないじゃないか!」
「魔法で火を消すのなら、そんなに火の近くまで行かないでしょ?だから大きな火傷を負う事なんて無いと思うのだけれど?」
「遠くから火の粉が飛んでくるかもしれないじゃないか?」
「それこそ水の魔法でも使って避ければ良いし…」
「魔法で避けきれないくらい、大きな火の粉が飛んできたら!?」
ここまで来ると、ウィリスが単なる言い掛かりを付けてきているだけの様な気がして、レイリアも段々と答えるのがバカらしくなってきた。
「それもう火の粉じゃなくて、火の玉よ…」
呆れて答えたレイリアに、ウィリスが声を張り上げた。
「あぁ、もう、そんなのどっちだっていい!兎に角レイリアは駄目だ!」
「私だけ特別扱いしないでよ!」
延々と続きそうな二人の言い合いに、とうとうがノーマンが割って入った。
「お二人ともいい加減になさって下さい!ここでお二人が言い争っている間にも、火の手は広がっているのです!旦那様、レイリア様にお願いするか、魔術士を呼び戻すのか、早急にご決断を!」
ノーマンの言に、即座にウィリスが命令を下す。
「山の南側と東側へ、こちらでも火の手が上がったと知らせて魔術士を戻すように伝えろ!」
「分かりました」
「間違ってるわ!」
レイリアは承諾の意を示すノーマンの声を打ち消す程の大声を上げると共に、テーブルへと拳を叩き付けて叫んだ。
「父様が言っていたもの!領主は領地とそこに住む人々を守る事が一番の仕事だって!だったらウィルが今すべき事は、魔術士の私に火を消しに行くよう命令する事よ!今ならまだ私が行けば間に合うかもしれないの!森を守れる可能性があるの!だからお願い!私を行かせて!」
このレイリアの言葉を受けて、ハーウェイ家の家臣達がウィリスへと進言し始めた。
「ゼピス家のご令嬢がここまで仰って下さるのです。どうでしょう、一度現場へお連れしてみるのは?」
「難しいようであれば、すぐに撤退なされば宜しいかと?」
「我々もお嬢様に付いて参りますし、危険な目に合わせるような事は絶対に致しません。如何でしょうか?」
最終決定権を持つウィリスへと人々が群がる中、ウィリスはとうとう肩を落とし、息を一つ吐いた。
「分かった…」
吐息と共に吐き出されたウィリスの一言に、周囲の人々と同じくレイリアも安堵に似た表情を浮かべた。
だがそれは、次のウィリスの言葉であっさりと打ち消される事となる。
「ただし、僕も行く!」
「はぁ?何言ってるの!?領主自ら危険な場所へ行くとかあり得ない!」
驚くレイリアへ、ウィリスが嫌味ったらしく言葉を吐いてきた。
「それを言うなら、侯爵令嬢が火災現場へ行く方がよっぽどおかしいだろっ!」
(うっ……)
ある意味正論を投げかけられてしまい、レイリアは少々言葉に詰まってしまった。
「で、でも、ほら、私は魔法が使えるし、ウィルみたいに領主でも無いから…。だから大丈夫よ!」
しどろもどろになりながらレイリアが適当な言い訳を並べ立てると、ウィリスがレイリアの前へと歩み出てきた。
そして、レイリアの目の前で両腕を組むと、まるで威嚇するかの様に仁王立ちとなった。
「悪いけど、今の言い訳も含めてとても大丈夫とは思えないから付いて行くって言ってるんだよ!だいたいレイリアは思い込んだら一直線に動くから、周りが止めるのも聞かないで森の奥まで突っ込んで行って気が付いたら火に囲まれていた、なんて事が冗談じゃなくてありそうだから困るんだ。そんな君をいざという時に止められる人間、今ここには僕以外いないじゃ無いか!」
「………」
いつものお説教にも似た口調で語るウィリスの話に、レイリアは思い当たる事が多過ぎてぐうの音も出ない。
「だからこの条件を飲めないのなら、絶対に行かせられない!!」
そう言い切って、凄みを利かせた眼差しを向けてくるウィリスに、レイリアは思わずたじろいだ。
「わ、分かったわよ…」
レイリアの了承を受けたウィリスは、すぐさま周りへと振り返った。
「では直ちに現場へ行く準備を!」
領主の言葉を受け、周囲の人々が慌ただしく動き出した。




