第百三話 魔法だから出来ること6
だがその静けさを、ウィリスの声が真っ先に破った。
「レイリアは駄目だ!」
立ち上がったウィリスが、レイリアへ鋭い視線を向けてくる。
「どうして!?魔術士が必要なんでしょ?」
「レイラ様からもカイからもレイリアの身の安全を託されている以上、レイリアを現場に行かせるわけにはいかない!それにレイリアは今までまともに魔法なんて使った事が無いじゃないか。いきなり現場へ行って火を消し止めるなんて、出来る訳が無いだろ!」
真っ向から否定してくるウィリスに、レイリアが強い口調で反発する。
「馬鹿にしないで!火へ向けて水を撒けば良いだけでしょ?それくらい出来るわよ!」
そう言い切ったレイリアへ、ノーマンが落ち着いた口調で語りかけてきた。
「恐れながらレイリア様、火災を止める為の手段としては確かに水の使用が一般的ですが、魔術士によって火を消し止める場合には、より確実に火を消すため、周囲を凍らせるという方法が主に採られております。山火事におきましても延焼を抑える目的から、魔術士による氷の魔法を用いた消火方法が推奨されております。レイリア様は氷の魔法をお使いになる事が出来ますか?」
ノーマンの言葉に、レイリアは昔習ったはずの魔法に関する知識を頭の奥から引っ張り出した。
氷魔法の『イクロス』は下級魔法に分類される魔法ではあるが、前提条件として、水魔法である『シェーラ』を使えなければならない。
今のレイリアはここ数日の魔法の特訓のおかげで、イクロスの前提となるシェーラもだいぶ安定して使いこなせるようになっていた。
だからこそ、使ったことが無いイクロスもきっと今の自分ならば大丈夫という、確信にも近い自信があった。
「多分出来るわ」
レイリアの答えに、ノーマンが不思議そうに聞き返してきた。
「多分?」
「イクロスを使ったことが無いの。だから多分としか言いようがないけれど、でも出来ると思う!」
「多分じゃ困るんだ」
硬い声のウィリスに、レイリアは水色の眼差しを真っ直ぐに向けて言った。
「分かってる。だから今ここでやってみようと思うの」
そのレイリアの言葉に、部屋のあちこちから
「え?」
という声が返ってくる。
そんな周囲の人々の反応を無視して、レアリアは右手にまずは白い魔力玉を作り出した。
(想像して、創造する…)
兄から習った魔法の使い方を思い出しながら、レイリアが魔力玉を水属性を示す青い色へと変えていく。
(水を凍らせて氷にして…)
頭の中で氷を作り出す場面を想像し、その想像上の氷を現実世界へと創造するため呪文を唱える。
「イクロス!」
声と共に床へと向けてレイリアが青い魔力玉を放てば、そこには人の背丈ほどもある大きな氷の塊が現れた。
「出来た!」
初めての魔法を成功させて喜びの声を上げるレイリアの周りでも、
「おぉっ!」
という、どよめきが起こる。
「これで問題無いはずよ」
得意げな顔を向けるレイリアへ、それでもウィリスはこう言った。
「氷の魔法を使えたとしても、僕はレイリアを行かせる訳にはいかない」
「どうして?」
「言っただろ?レイラ様からレイリアの身の安全を託されているって。それなのに、どうしてレイリアを火事の最前線になんて向かわせられるっていうんだ」
「ここには私しか魔術士が居ないんだから、仕方が無いじゃない?」
「仕方が無いから向かわせろって言うのか?そんなの駄目に決まってるだろっ!」
珍しく感情を剥き出しにして大声を張り上げるウィリスに、レイリアは驚いた。
「ウィルにとってお祖母様からお願いされた事は、そんなに絶対守らないといけないものなの?」
「それだけじゃない!万が一レイリアが火傷でもしたらどうするんだよ!?」
その言葉にレイリアは、
(あぁ、なるほど)
と納得した。
レイリアは曲がりなりにも侯爵家の令嬢だ。
そのレイリアがもしグレナ伯爵領内の山火事に巻き込まれて怪我を負ったとなれば、ウィリスは責任を取らされて、降爵させられる可能性もある。
その事をウィリスは心配しているのだろう。
ウィリスの台詞から彼の意図をそう“誤解”したレイリアは、出来る限り明く言った。




