第百一話 魔法だから出来ること4
残されたレイリアはウィリスと共に用意された椅子へ座ると、早々に口を開いた。
「兄様はあんな風に言ってくれたけれど、さっきのお祖母様のアレ、絶対本心よ。そう思わない?」
先程のやりとりをすぐ側で聞いていたウィリスにレイリアが同意を求めると、ウィリスは困ったような顔をして言った。
「うーん…。僕はカイの言った通りの意味でレイラ様は言ったんだと思うけど…」
予想に反して異を唱えてきたウィリスに、レイリアは顔をしかめた。
「あれのどこをどう聞いたらそうなるのよ?」
「僕、レイラ様と同じ車に乗ってここに来ただろ?」
「えぇ」
「その間中、レイラ様はずっとレイリアの話をされていたんだ」
ウィリスの思いもかけない言葉に、レイリアは目をしばたたかせた。
「兄様じゃなくて、私の話?」
「うん。リシュラスではどんな生活をしているかとか、学園ではどんな風に過ごしているかとか、色々聞かれたよ」
「それってただ単に私の粗探しじゃ無いの?」
「違うよ。レイリアの事を心配されてるからだよ」
「どうせアレでしょ?私が次は何をやらかすのかとか、そういう心配をしていらっしゃるんでしょ?」
今のレイリアの話にウィリスは
「はぁーっ」
と大きなため息を返した。
「何でそういう受け取り方をするかなぁ。レイラ様は純粋にレイリアの事を心配して下さっているのに…」
「だって私、お祖母様に怒られた記憶は山ほどあるけれど、心配された記憶って殆ど無いもの」
「それはレイリアの行動に色々と問題があるからじゃ…」
そのウィリスの言葉にレイリアはムッとなって言い返した。
「分かっているわよ、それくらい。でもね、根本的な所でウィルは間違っているわ」
「?」
ウィリスはレイリアが指摘する間違いがわからず、額に八の字を寄せた。
するとレイリアは何かを諦めた様に寂しげに笑んだ。
「お祖母様はね、私が魔法を選ばなかった事をずっと許して下さっていないの。だからお祖母様は、私の事が嫌いなのよ」
まさかレイリアがレイラに対してその様な思い違いをしていたと思わなかったウィリスは、驚き焦りながら言った。
「そんな事無いって!」
「そうじゃ無かったら、アトスと魔法勝負をしろだなんて仰ったりしないわよ」
「違う!」
珍しく熱い口調で否定してくるウィリスに、レイリアは少し驚きながら尋ねた。
「…何が違うのよ?」
「レイラ様はレイリアをアトスから守るためにあんな提案をされたんだ!」
ウィリスの話にレイリアは小首を傾げた。
「どういう事?」
「あの提案をファルムエイド家側がのんだ以上、レイリアが勝てばアトスとの婚約話は永遠に無くなるからだよ」
「それって、お祖母様は私がアトスに勝てると思っていらっしゃるっていう事?」
「そうだよ!」
「その話、本当かしら?」
「帰郷の挨拶に伺った時、レイラ様はアトスの事をファルムエイドの小倅って呼んでいたし、レイリアをアトスに勝たせるって言っていたんだ。元からあの方は、レイリアをアトスに渡すつもりなんて無いんだよ」
ウィリスがここまで言っても訝しむ様子を崩さないレイリアへ、ウィリスはさらに言葉を続けた。
「だいたい、アトスに勝つための魔法の指導を、カイだけじゃなくてレイラ様もして下さったんだろ?」
レイリアはコクンと頷きつつも、小さな声で反論した。
「でもそれは、お祖母様が私を魔術士にしたいから…」
そんなレイリアに、ウィリスは諭す様に言った。
「それもあるかもしれない…。でもさ、レイラ様もレイリアに勝ってもらいたいから、レイリアをファルムエイド家へ渡したく無いから手伝って下さったんだ。分かるだろ?」
「……」
不安げにただ黙ってじっと見つめてくるレイリアに、ウィリスはふわりと微笑んだ。
「大丈夫。レイラ様はレイリアの事を嫌ってないし、レイリアの事をきちんと考えて下さってるよ」
ウィリスの笑みに一瞬ピクリと固まってしまったレイリアだったが、続いてもたらされた言葉にこわばっていた表情を緩めた。
「ありがとう、ウィル。そう言ってもらえて、ちょっと気持ちが楽になったかも」
「僕が今言った事は本当だよ。もし疑うなら直接レイラ様に伺ってみたらいい」
「そうね。機会があったらね」
レイリアはそう言うと、小さく笑った。




