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T  作者: 水面
8/22

自ら泥沼に。

ハンドルにもたれるようにしてTの屋敷を見上げていた。いつ見ても大きな屋敷だ。

この大きな屋敷の中で奥様として生活しているのか?

そんな女を俺は受け止められるのだろうか。

でも、会いたい。もう一度この胸に抱きたい。

そんなことを考えていたら、突然携帯が鳴った。


そんなところにいてはダメよ。

誰が見てるか分からないから…。

お願いやめて。


懐かしいTの声。もう忘れかけていた。


会いたい。お願いだから会って欲しい。

会ってくれるまでここから動かない。


しばしの沈黙の後、


わかったわ。1時間後にあなたの部屋で会いましょう。


それだけ言うと一方的に電話を斬られた。



1時間後、俺のマンションに現れたあなたは、俺の記憶にあるどれよりも艶やかで美しかった。

俺は思わずその華奢な肩を抱きしめていた。

俺の腕の中、いつものように甘いささやき声が聞こえてきた。


私は毎日あなたのCDを聴き、DVDを見ていたわ。

こんな素晴らしい人が私のことを愛してくれた。

誇らしい気持ちになるのと同時に悲しみが押し寄せてきたわ。

なぜあなたの手を離してしまったのかしら。

いくら悔やんでも悔やみきれなかった。

もう一度会えたら、もう一度最初から出会えたら、もっと早く出会っていたら。

私、この先どうなるかわからないけど、あなたと一緒にいたいの。


そうだ、先の事など誰にもわからない。

でも、俺はもうこの手を離さない、絶対に。


泣き疲れてグッタリとしたあなたの肩を抱き、ソファーに座り2人で新しいCD 3枚を聞いた。



いつの間にかあなたは再び泣いていた。


これは私たちの事?

心を揺さぶられる歌だわ。

あなたの怒り、悲しみ、優しさ、愛情、全てが感じられるわ。

私はあなたからこんなに愛されてるの?

私にそんな価値はあるの?


俺は返事の代わりにあなたの肩を抱く腕に力を込めた。

あなたは、泣いて泣いて、体中の全ての水分がなくなってしまうように泣いていた。

俺たちは再びスタート地点に立った。

この先何があろうと俺はこの手を離さない。

あなたにもそれだけの覚悟があるかどうか…。

俺が支えていなきゃ立ってもいられないほど、華奢で儚いT。

これから様々なことがあるだろう。

誹謗中傷、嫌がらせ、面白おかしくささやかれる噂、もしかしたら危害を加えてくる奴もいるかもしれない。そんな困難に立ち向かえるのだろうか。


あなたは、この先どうなるか分からないけど一緒にいたいと言った。

俺が手を取り、励まし、支えていけば…。

俺はこの手を離すつもりはないし、俺だけのものにしたい。これがどんなに自分勝手な思いであろうと。

俺は自ら泥沼に飛び込んだ。




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