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T  作者: 水面
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ツアーの合間の逢瀬

ツアーの中休み。東京に戻ってきた。

昨夜、俺はTに携帯をかけ、俺の部屋で待っててくれるよう懇願していた。

果たして待っててくれるのか。

俺は柄にもなく、緊張し祈るような気持ちで部屋の扉を開けた。


玄関には、華奢なヒールの靴が行儀良く揃えられていた。


T、T!


俺の叫び声に鬱陶しそうな顔をしたTが出迎えてくれた。

2週間ぶりに見たTは相変わらず美しい。

俺は玄関先でTを抱きしめ、2人はもつれるように寝室のベッドの上に倒れ込んだ。


何度もキスを繰り返し、Tの唇から吐き出されたのは、甘い吐息と、


会いたかったわ。


と言う囁き。消え入りそうな声だったが、確かにそう言った。

俺の気持ちがやっとつうじたのか…。

東京にいられるのは3日間。その間にプロモーションやテレビの出演があるけど、Tと過ごす時間は充分ある。


夢中で愛し合い、まどろんだあと、


今日は泊まっていけば?


俺の言葉に首を横に振るT。


なぜ?どうせ、ご主人は帰ってこないだろう?

なら、ここに泊まったって、問題はないだろう?


そんなことはできないわ。

使用人の手前、私が留守にするなんて出来ないわ。


そんな体裁より、俺と過ごすことを優先してくれよ。

俺は、このオフの間、Tと過ごすことを楽しみにしていたのに?


そんな俺の問いかけを無視するように、


ライブのあなたってどんな感じなの?

いつものようにきれいに変身するの?

いちど見てみたいわ。


そうや、それがいい。

3日後にまたツアーに出るが、1週間後には東京でライブをやる予定だ。その時、俺の歌う姿を見て欲しい。



結局、ライブの中休みの3日間、毎日会うことはできたが、Tが俺の部屋に泊まることは無かった。

この部屋で抱き合い、甘い時間を過ごした後、あの屋敷にTを送って行くのは辛かった。

何故か、帰り支度をしているTは、見知らぬ人のようだった。取り澄ました冷たい美貌。もしかしたら、これが本来のTなのか?

屋敷に使用人、人妻、俺の知らないT。

俺と離れている時は、どんな顔をしているのだろう?

そんなことを考えていると俺の心の中にどす黒い嫉妬が渦巻いてきた。自然とこわばった表情を見せたのだろう。


どうしたの?とても怖い顔してるわ。


先程の表情とは打って変わって、無邪気な瞳で聞いてくる。こんな顔しているのは誰のせいだと思っているんだ。

一度燃え上がってしまった嫉妬の炎を沈めることができない。

俺は、すっかり帰りじたくが出来上がったTの手を掴んで離さない。


俺の胸に縋って、甘い吐息を漏らしていたのは誰だ?



私の立場をわかってとは言わない。

私だって辛いの。あんな家には帰りたくない。

でも、でも。

自分が怖いのよ。あなたにすがりつきたい。

でも、今のままではあなたの負担になってしまう。


そう言いながら俺の胸でさめざめと泣いている。

俺は、1つの決断を迫られているんだな?

無意識のうちにあなたは、俺に決断を迫っている。

俺はどうしたい?

そんな俺の逡巡を目の当たりにして、あなたは、ため息をつき、屋敷に帰っていった。

送っていくと言う俺の手を振り解いて。


それから3日後俺はライブに出かけた。

そして1週間、東京を離れていた。

Tと連絡を取らなかった。

会えないまま、考える時間はたっぷりあった。

でも、考えても考えても…。


俺の理性は、こんな関係を早くやめろと言っている。

まだ始まったばかりの関係だ。今なら引き返せる。

しかし俺の感情は、そうではなかった。

本当はもう少し時間が欲しかった。

ただ、これは最初から決まっていたことだ。

俺は、最初から愛していたじゃないか。何を戸惑うことがある。

これから先、どんな困難が待ち受けていようと、あのたおやかなTを欲しい。何を捨てても欲しい。


そして俺はツアー最終日電話をしていた。


俺の部屋で待ってて欲しい。



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