会えないのは寂しい。
毎日電話するし、メールも送る。
だから、我慢して。俺のことを忘れないで。
悲しそうな顔のTに俺は懇願していた。
この俺が?
今まで散々女遊びを繰り返してきた俺が?
少しずつ2人の気持ちが寄り添ってきたところだ。
また、振り出しに戻ってしまいそうで怖い。
いまいちTの気持ちを掴み切れていない。
最近のTは、咲き誇る大輪の花のようだ。
本当に美しい。
神の祝福を受けたように…。
そんなTと逢えないのは辛い。
そして、辛いだけじゃなく心配だ。
俺と逢えない間、あの屋敷で過ごすT。
いくら、ほとんど別居状態とはいえ、旦那が帰ってくることもあるだろう。
旦那がTの変化に気がつかない訳がない。
そして、旦那が気まぐれにTを抱こうとしたら?
あの2人は正式な夫婦だ。俺に文句を言う権利は無い。
しばらく会えないと言うだけで涙ぐんでしまうTに少しずつ俺の仕事を説明していた。
今は、ソロワークに加えてグループの活動。
どちらにしても今年も来年もスケジュールはいっぱいいっぱいだ。
ツアーの合間に東京へ帰ってくることもある。
そんな時はこの部屋で待っていてほしいと鍵をそっと渡した。
そんな時だけじゃなく、いつ来てもいいよ。
自分の部屋だと思って寛いで欲しい。
もう後戻りは出来ない。俺の覚悟はできた。
では、Tは?
逢えないのは、寂しいの。
ぽつりと消え入るような声で囁いたT。
あなたを好きよ。でも、この気持ちが何なのかよく分からないの。
でも、寂しいと思ってくれるんだな。俺のことを好きと言ってくれた。
まだ、俺たちの関係は始まったばかり。
少しずつ少しずつ、Tの気持ちを手繰り寄せ、俺なしでは生きていけないようにしたらいい。
ツアーが始まった。
北海道皮切りに東北地方を回って東京に帰ってくる。
その間約2週間。
寂しいの。
今までは平気だったけど、あなたと知り合って、1人は寂しい。早く会いたいわ。
素直な心の叫びだろう。こんなに自分の心情を吐露してくれるとは、思ってもいなかった。
俺だって会いたい。
もちろん、四六時中Tのことを考えている訳じゃない。
念願のソロ活動。苦しんだアルバム作り、その集大成のツアー。
俺の活動を支えてくれるスタッフ、応援してくれるファン、俺の我儘を笑って許してくれたメンバー。
俺には、その全てに責任がある。
しかし、ふとした心の隙間にTの存在がある。
優しい気持ちになると同時にやる気も起こしてくれる存在。
今まで付き合ってきた女とは違う。
こんな風に俺の心を満たしてくれる存在は初めてだ。