Tのために涙した。
その日、俺はTを抱かなかった。
俺たちの関係を身体だけの関係だと思っているTは、不安そうな顔を隠さない。
こんな表情もするんだな。いつも淡々と俺に抱かれていたのに。
本当は、俺だって抱きたかった。でも、それだけじゃ無い。俺の気持ちを分かって欲しかった。
しかし、何の説明もなしに分かれと言う方が無理か?
Tは誤解したようだ。
もう、お別れなのね。
もう、新しい人がいるの?
それなら、今日でお別れね。
静かに微笑んで、部屋を出て行こうとするT。
あほう、俺の気持ちが分からないのか?
気持ちが通じたって思っていたのに!
俺の怒鳴り声に怯え、はらはらと涙を流しながら、
もしかしたら、あなたから愛されているのかもしれないと思うことは度々あったわ。
でも、私は恋や愛が分からないの。
誰にも愛されたことがないから。
そう訴えるT。可哀想なT。
どうして、Tのような女がこんな思いをしなくてはならないんだろう。
まだ見ぬY氏を俺は憎んだ。
そして、Tのために涙した。
私のために泣かないで。
私は慣れっこだから大丈夫。
俺の頬の涙を拭う華奢なTの指。
俺は、その手にそっと口付けた。
愛してる…俺の心の1番奥深く柔らかい場所から気持ちが吹き出してきた。
もうこの想いは止められない。
Tの気持ちも確認したい。でも無理だろうな。
捨てられた子犬のようなTには、愛が何か分からない。
こんな事は言ってわかることでもない。
Tの心をゆっくりと解していくのも俺の役目だ。
しかし、ツアーが始まる。
逢えない日々が続く。
折角近づいた心の距離がまた遠ざかっていきそうで怖い。
ツアーが始まるので、しばらく会えないと言った時の顔。そんな悲しそうな顔しないでくれ。俺だって辛い。