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T  作者: 水面
3/22

愛を信じないT、

ソロの活動とメンバーの曲作りに追われて、なかなかTに逢えない。

それは寂しいが、ゆっくりと2人の関係を考える時間でもある。


今日は、本当に時間がなかったんだ。

今日の逢瀬は、結局いつものホテルで数時間。

先日の電話の一件を忘れたような冷たい表情のT。

俺もあえて言わない。Tを追い詰めたくなかったから。

お互いを貪り合い別れていく。


身体だけの関係?

いつかどちらかが飽きたら終わる?


そうTが思い込んでしまうのも無理はない。


そんな逢瀬が数回続いた。逢瀬の合間には、電話しているが、また最初の頃に戻ってしまったようなTの態度。

早くゆっくり逢いたい。

今はとてつもなく忙しいと説明したが、そんなことには興味がないと取り付く島もない。


忙しい日が続いている。

その合間を縫って、携帯の向こう側のTに話しかける。

そして最後に愛の言葉を囁く。


愛してる。


そんなこと信じられないわ。

あのホテルの部屋で私を抱いたあと、忙しいと言いながら、もう用事はないとばかりに私を部屋から追い出すじゃない。

愛してるなんて、もう言わなくていいのよ。

私たちは、あの部屋だけの関係。

それ以上でもそれ以下でもないわ。

私に飽きたなら、そう言って頂戴。

綺麗に別れてあげる。


今まで、俺はTの気持ちを忖度することもなく、自分の気持ちをTに言うこともなかった。俺が悪い。

俺は一呼吸おいて、明日逢おうと告げていた。



正直なところ、Tが人妻じゃなかったら?

俺は独身だ。一時的に騒がれたとしても、何はばかることは無いだろう。

しかし、俺たちは不倫。不倫、略奪。格好のマスコミの餌食だ。

俺の仕事は、俺1人では成り立たない。

ソロの仕事とメンバーの仕事。事務所、スポンサー、スタッフ…信じられないほどの人と金が動いてる。

それでも、それでもなお。


この日は、マネージャーにTを俺の新しいマンションに案内させた。


ここはどこ?


不安な表情を隠しもせず訊ねるT。


俺の新しい部屋。


そう。


俺の答えを聞いたTは、如何にも興味が無さそうに、いつもの手順で服を脱ぎ始めた。

俺はその手を押しとどめ、Tをソファーに座らせた。


ここでTとゆっくり過ごしたい。

ソロの新しいアルバムが出来上がったので、ここで一緒に聴こう。

このアルバムをひっさげて、ソロツアーで全国を回るんだ。


このアルバムは、Tと知り合ったとき、ロンドンでレコーディングしていた。俺のソロ第一弾。

渾身の出来だ。ぜひ、Tに聴いて欲しい。


俺の話を聞いているのかどうか。

如何にも興味なさげだったTの目尻に涙が滲んでいる。


素敵な曲ばかり。本当にこれを全部あなたが作ったの?

そんなに凄い人だと思わなかったわ。


少しは俺のこと見直した?


俺の言葉に子供のようにコクンと頷くTの肩を抱き、暮れ行く部屋で俺のCDを聴いていた。

他のも聴きたいの言うので、Tのことを驚かそうと思って、はるか昔のツアーのDVDを見せた。

そこには、10年以上昔、20代前半の俺が大写しになっていた。目をまん丸にして、テレビの画面と隣に座る俺を交互に見ているT。


綺麗ね。今もこんな感じに変身するの?

いつも無精髭を生やしてるのに?

そう言えば、あなたのことを調べた時、変身したあなたの画像ばかりで、違う人なのかなって思ってたの。


とうとう、俺は笑い出した。

こんなに笑ったのは久しぶりだ。



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