愛人から。
愛人との間に子供ができたと聞いた。
これで離婚できると喜んでいた矢先、Tの携帯に見知らぬ番号からの着信があった。
誰かしら?
もしもし?
あなたの表情が変わった。誰からだ?
あなたが貧血起こしたような顔色になったので、俺が携帯を受け取り、会話を続けた。
相手は旦那の愛人だった。
控えめな物言いだったけど、要約すると自分たちの間に子供ができたので、彼女に別れて欲しいと言う内容だった。
相手は冷静に話を続けたので、俺もそれに冷静に答えたつもりだった。
もう弁護士を立てているので、連絡はそちらにして欲しい。直接あなたと交渉するつもりはない。
携帯を切った後、俺もショックだった。
こんなふうに見知らぬ他人から責められると言う事は、Tのように今まで誰かから守られてきた人間には、どれほど辛いことだろう。
電話を切った後あなたは泣いて泣いて泣き疲れて寝てしまった。
なぜ泣いている?
やはり、旦那と別れたくないのか?
あんな旦那なのに未練があるのか?
そんな有りもしない妄想を繰り返し、俺も泣きたい気分だった。
違うわ。私は今まで人からこんな風に憎しみや恨みをぶつけられることがなかったの。
怖かったわ。あの人、静かに話していたけど、静かだからこそ余計に怖かった。
あの人、ここ数年、とても傷ついていたと思う。
私のせいで。
また泣き始めたあなたの肩を抱いて、俺は、
Tのせいじゃない。あなただって犠牲者なんだ。
と、慰めるしかなかった。