迷路。
いったい何回電話したやろ。
本当は、この日は移動日だったけど、
急に思い立ち、俺だけ無理を言って、
東京に一旦帰らしてもらった。
とにかく無性にあなたに逢いたかった。
やっと通じた携帯から聞こえてくるあなたの声。
どうしたの?
今、東京。少しでも逢いたい。
私は用事で銀座に居るの。
分かった。迎えに行くから。
銀座か…、弁護士のところなんや。
先日の3人でのホテルの話し合いで埒があかなかったので、Tは正式に弁護士を雇った。
何となく疲れた声をしてたけど、
大丈夫なんやろか。心配や…。
あなたを銀座の路地で拾って、
俺は聞いた。
弁護士さんのとこ?
うん。あちらの弁護士さんと私たち4人で…。
どうやった?
まだ別れてくれへんて?
顔色悪いで。どこかで休んでいく?
ごめんなさい。そういう気分じゃないの。
違うて。ほんまに顔色悪いで…。
疲れたの。すこし、目を瞑っていたいんだけど、
このまま、車を走らせていてくれる?
このまま、あなたを連れて
どこかへ行ってしまいたかったけど、
そういう訳にもいかず、
あなたを乗せて、無言のまま、
渋谷近辺をぐるぐると走った。
迷路に迷い込んだような今の俺たちの状態を
表しているようだった。




