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《前編》「一度でいいから、僕とデートをしてほしい」

「やあ。ラアラ。今日も可愛いね」

 ロランはそう言って、出迎えた私の手を取り、チュッとキスをする。

「どうして君の手はいつも薔薇の香りがするのだろう」


 そんなの、メイドがローズオイル入りのクリームを塗ってくれるからに決まっているじゃない。


 それから彼は私のおろした髪をひとすくい手にとり、またチュッとキスをする。

「まるで収穫前の小麦畑のような金髪だ」とロラン。


 いえいえ。都生まれ、都育ちのあなたがそんなものをいつ見たの?絶対に誰かの受け売りでしょう?


 髪を離すとこんどは私の顔をのぞきこむ。

「きみの瞳はいつ見ても真夏の青空みたいで吸い込まれそうだ」

「近いわ、ロラン!」


 そっと彼の胸を押し返す。

「そう?ごめんよ、気付かなかった」

「あなたはいつも、そう言うわ」



 いつものやり取りをいつものように繰り返す。

 我が国の第4王子ロランは自分の身分もわきまえず、二日と置かずに私の屋敷にやって来て、こうなのだ。


「ところでどうだい?僕とデートをする気にはなったかい?」

「なっていないわ」

「一度でいいからデートをしてほしいのだけどな」

「ムリなお話ね」


 ロランはどこか諦観した表情で私を見る。


「君とデートをしたら、きっと楽しいと思うのだけどな」




 ◇◇



 ロランとの出会いは一年ほど前で、偶然のことだった。


 この国の貴族は社交界デビューができる16歳になると、国王陛下に挨拶に伺うのがしきたりだ。

 私は公爵家の娘で、その時はこの挨拶をするために王宮に上がっていた。付き添いの父は宰相職にあり、私の謁見が済むと同時に緊急の仕事が入ってしまったのだった。


 せっかくだから庭園を散歩でもして待っているといい。今は薔薇が盛りだから。


 国王陛下がそう勧めて下さって、私は侍女の案内で庭に出た。

 そこでロランに出会ったのだ。


 彼は薔薇にもその他の花にも詳しいからと、案内を買ってでてくれた。

 私は蘊蓄はいらないのだけどと思ったのだけど、それが顔に出ていたらしい。

 ロランは笑って

「大丈夫、眠たくなる話はしないから」

 と言ったのだった。


 実際に彼の話は楽しく、庭園の見所を巡りながら私たちはすっかり仲良くなったのだった。


 その後仕事を終えた父に、ロラン王子と知り合ったのよと告げると何故か複雑そうな表情をして

「彼と友人になるのは賛成だけど、好きになってはいけないよ。結婚できる相手ではないからね」

 と言ったのだった。


 彼はひとつ歳上の17歳で、目を見張るような美男子だった。

 金色の髪は私よりもずっと濃くて緩やかに波うち、緑の瞳は萌えいでたばかりの若葉の色、形良い唇は紅を差したかのように紅く、白皙の頬に美しい稜線を描く鼻にと、とにかく完璧に美しいのだ。


 だからきっと、素晴らしいご婚約者様がいるのだろうと思ったのだが、違った。


 どうして彼を好きになってはいけないのか、父は教えてくれなかった。そのくせ彼が屋敷に遊びに来るのは歓迎している。


 ロランは最初のころからやたらと私を褒めはしたけれど、あくまで友人としてだった。

 ここ三月ほどで急に、デートをしたいと言い出して、スキンシップが激しくなったのだ。


 そのくせ自分が私をどう思っているのかは言わない。というか、どうも思っていないのかもしれない。

 デートに誘うなら、そこにはそれなりの感情が伴うはずと思っている私が愚かなのかもしれない。




 ◇◇



「ねえ、可愛いラアラ。僕とデートをしよう。君と一緒に植物園の散歩をしたいんだ」

 今日もロランはいつものように私を誘う。

「遠慮をするわ」

「どうして」

「友達同士でデートはしないわ」

「そうでもないよ」


 そうかしら。私の友人がしているデートは婚約者とだ。


「頼むよ。一度でいいんだ、君とデートをしてみたい」

 今日のロランはどこか切なげに見える。

「……友人としての散策なら行くわ。植物園は好きだもの」

「僕はデートがいいんだ。手を繋いだり腕を組んで歩きたい」


 それは、本当にデートだ。望まれた具体的なことに、胸がドキドキする。

「……婚約者でもないのに、そんな破廉恥なことはできないわ」

 ね、と同意を求めて部屋の隅に控えている執事を振り返ると、彼はいなかった。

「あら?」

 他に従者もメイドもいない。今までは必ず誰かが控えていたのに、こんなことがある?


「執事なら先ほど出ていったよ。用事かな」とロラン。「破廉恥、というほどではないよ。みんなしている。お願いだから、行こう」


 ロランは懇願の表情で、なんだか断っている私のほうが悪いことをしている気分になってしまう、

 だけど手繋ぎデートなんてものは、やっぱりそれなりの間柄のふたりがするものだと思う。


 デートを誘う前に言うことがあるのじゃない?


 だけどロランは私が欲しい言葉を口にしない。それともデートをしたら、言ってもらえるのだろうか。いいや、この分ならばあまり期待できないだろう。


 うつむいて、ゆっくり首を横に振った。


「……そうか。ごめん。困らせて」

 そんな言葉が聞きたいわけではないのだ。顔を上げると、ロランは悲しそうな目をしていた。


「どうしてそんなにデートがしたいの?」

「……君とだったら楽しそうだから。だけど、もういいよ。今日はプレゼントがあるんだ」


『もういい』んだ。私はがっかりした。


 ロランははい、と小箱を卓上に置いた。

 ありがとうと礼を言って開けると、中には宝石で作られた鳥のブローチが入っていた。

 宝石はきれいな緑色だった。


「どうかな?」

「可愛いわ。……あなたの瞳の色ね」

「本当だ。気付かなかった」にこりとするロラン。「つけてあげるよ」


 彼はそう言って立ち上がり私のそばに来ると、ブローチを胸元につけようとする。


 あまりの近さ、ロランから漂う良い香り、大きな手に胸がまたドキドキという。

 だけどロランは私が欲しい言葉を言ってはくれない。

 ときめくだけ、むなしい気がしてしまう。


「よし、できた。似合うよ」

「ありがとう」

「大切にしてもらえたら嬉しいな」

「……大切にするわ」

 彼は私の手を取ると、

「約束だよ。僕の可愛いラアラ」

 と言って、チュッとキスをした。




 ◇◇



 その二日後のこと。仕事から帰ってきた父に一通の手紙を渡された。ロランからだった。父は、晩餐のあとに、ゆっくり読みなさいと言った。


 私は何故か嫌な予感がして、待てずにすぐに開封した。




『やあ、可愛いラアラ。手紙を送るのは初めてだね。上手く書けるといいのだけど。

 何度もデートをしたいと誘い困らせてしまって、本当にごめん。

 実は僕は仕事で遠い国へ行く。何年も前から決まっていてね。恐らく二度と帰ってくることはない。遠すぎて手紙のやり取りも難しい。

 だから君との思い出に、デートをしたかったんだ。

 だけどひとつ言っておくよ。今の君はきっと断ったことを後悔しているだろうけど、それは必要のない後悔だ。

 君と友人になれて、一年間たくさんの話をして、とても楽しかった。素敵な思い出をありがとう。

 だから後悔はしないで。

 ブローチは大切にしてくれよ。約束だからね。

 では。君の幸せを祈っている』




 読み終えると手紙を握りしめたまま、父の元に走った。


 父はロランが任じられた仕事も、いつ旅立つかも、最初から知っていたそうだ。だから私に好きになってはいけないよと釘を刺したらしい。

 しかもロランはこの赴任を大事にしたくないと望んでいて、陛下によって箝口令がしかれていたという。


 今日の午前に出立したそうだけど、それも秘密。表向きは近隣への視察旅行となっているそうだ。





「何よそれ!」

 行き場のない怒りと胸が張り裂けそうなほどの後悔で、一晩中泣き続けた。





お読み下さり、ありがとうございます。

前・中・後編の全3回予定です。



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