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「今日行く所は、役所の中でも関係者以外立入禁止の場所になりますので、身分証の提示や手続きが必要になるかもしれません。ご面倒ですがよろしくお願いします。」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。」

「それから一つお詫びを。昨日電話で問い合わせた際に『お渡ししたいものがあるので是非お越しください』と担当者から伝言を預かっていたのですが…お伝えしそびれてしまいました。」

「僕が二つ返事で役所へ行くと答えてしまったので、伝言の出番が無かったですね…すみません。いずれにしても、今日来ることができて良かったです。」

「こちらこそ。そう言っていただけて良かったです。では向かいましょうか。」


 そう言って歩き出す先生の後ろをついていく。

 先生が一般窓口の端にひっそりと在る小さな窓口に立寄り声をかけると奥から係員が出てきた。係員は先生が提示したカードを確認し、役所の建物内でも奥まった部屋の前に案内してくれた。きっと一人で帰れないだろうなと思う程に、順路は覚えられなかった。案内をしてくれた係員がその部屋に入っていき、その間その場で少し待つことになった。


「さて、入室前にちょっと手続きが必要になります。係の方が中から書類を持って戻ってきますので、必要事項の記入と身分証の提示をお願いします。」

「わかりました。それにしても随分奥まったところにありますね。」

「ここの課は特殊なうえに、この部屋に直接用事のある人の方が少ないですからね。建物内でも一般の来所者向けの案内板には書かれていない場所なんです。案内されるルートが日によって違うので、若干遠回りしながら通されているようです。関係者以外立入禁止なだけありますね。」


 そんな話をしていると、先ほどの係員と共に担当者が書類をもって部屋から出てきた。先生と担当者は顔なじみの様で、簡単な挨拶をしながら、僕の紹介と昨日の電話の件の説明をしてくれた。紹介時に挨拶をした後、先生が説明をしている間に書類へ記入を済ませ、身分証と併せて係員へ渡すと、確認のため担当者と一緒に部屋へ戻ってしまったので、また少し先生と2人で待つことになった。程なくして部屋の扉が開き、中に招かれた。


「あ、えと、失礼します。」

「どうぞ。ここは戸籍住民課特殊保護係です。あなたの奥様については昨日研究所からお電話いただいた際に伺っております。」

「昨日は急な問い合わせに対応いただいて、ありがとうございました。彼には私から概要説明しました。」

「事前にお話いただいているなら早いですね。では早速、資料とお預かり品お持ちしますので、こちらに掛けてお待ちください。あぁ、その前に身分証お返ししますね。」


 僕が担当者から返却された身分証を受取ったのを見届けると、係員は先ほどの書類を持って退出した。


「では、資料とお預かり品お持ちしますので、少々お待ち下さい。」


 通された応接セットの長ソファーで先生の横に座り資料の到着を待つ間、少し尋ねてみる。


「先生、戸籍住民課の特殊な部署のようですが、ここは一体どういったところなのですか。」

「そうですね、端的に言うならば人魚の戸籍を取り扱うところといえば良いでしょうか。あなたも奥様と婚姻する際、特に問題なく入籍できたでしょう。」

「普通の人と思っていたので当時は気にかけていませんでしたが、今思えば、そうですね。手続きに問題は生じなかったです。」

「ここは陸に上がって人として暮らす人魚のために戸籍を作ったり、作った戸籍を海へ還る前に処理する窓口になるんです。もちろん過去の分も管理しているし、必要があれば人魚の保護等も担うこともあるので、戸籍住民課の中の特殊保護係という位置付けなんです。この島の人魚にとって役所全機能を集約した部署にあたります。それ故に秘匿性が高いのです。」

「ああ、それで入室前の書類に関係者以外への守秘義務についてが書かれていたのですか。」

「ええ。その通りです。」

「すみません、お待たせしました。こちらが奥様の戸籍関連の資料と、奥様からお預かりしたものです。」

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