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「お待ちしてました。遠いところまで足を運んでいただいてしまって…最寄り駅もなかなかに遠かったでしょう。ささ、上がってください。」
旧知の仲である研究者から連絡をもらって数日後、約束の時間にここを訪ねてきた青年は、とても疲れているように見えた。小さな離島の、小さな研究室兼自宅であるこの研究所は、かなり遠かったに違いない。そう思って声をかけたが、彼の眼は私の背後の壁に飾られていた額縁を見て、固まっていた。疲れの原因は道のりだけではないようだ。
「やはり、ご用件はコレについてですね?」
やっと瞬きをした彼は、私の声に何とか無言で頷いた。さっきまで固まっていた彼を促し、研究室のソファーを勧める。
腰掛けてすぐ、話し始めてしまいそうな様子であったため、早めにその場を離れ、コーヒーを2人分淹れてきた。彼はきっと「確認したい」でいっぱいいっぱいだろうから、何も飲まないだろう。紅茶派かもしれないが、それを私が尋ねられるほど彼に余裕はない。けれど少しはもてなしたいし、可能なら落ち着いて話をしたい。そのための一杯。
「先ほどは、失礼しました。急にお約束をして訪ねてきたにもかかわらず、挨拶もなしに固まってしまいまして…」
コーヒーを両手に戻ってきた私に、彼が詫びを口にする。待っている間に再起動できたようで少し安心した。
「いえ、こちらこそ。ようこそわが研究所へ、と言える程の場所でもありませんが、歓迎させてください。好みを伺わず持ってきてしまいましたが、よろしければこちらをどうぞ。紅茶派でしたら淹れ直しますので遠慮なく仰ってください。」
そうしてやっと互いに簡単な自己紹介をし、彼もコーヒーが飲める口であることを確認した。良かった。
そして、ここから本題に入る。この青年は雑談する時間も惜しいくらいに答えを探しているはずだ。
「早速ですが、本題に入りましょうか。ここを紹介した研究者とは昔馴染みなもので…互いに関係性のない研究をしていますが、この手の問合せがあったら繋いでもらえるよう、ずっと前に話をしていたんです。見覚えのない不思議な色彩の鱗を持った青年が訪ねてきたが、紹介しても良いだろうかと連絡がありましたので、鱗について少々聞いたうえで、あなたに連絡を取ってもらいました。本来であれば私から伺うべきところを、ここまで来ていただいて、ありがとうございます。」
「急ぎ確認したいと最短日数でお約束をお願いしたのは僕ですから。お時間いただきありがとうございます。」
そう言って彼は、ここを紹介されるまでの経緯を話してくれた。妻の失踪と捜索、謎の鱗について知っている人を探し、私にたどり着いたこと、鱗の正体を知る人を探すにあたっては、詳しい経緯は話さずに居たこと等、順を追って説明された全てを静かに聞く。
彼の話を聞くに、いくつか思い当たる節がある。今回の件は私の見立て通りで間違いないだろう。しかし突飛な話になるため、どう伝えるべきだろうか…
「いくつか伺ってもよろしいですか。答えられる範囲でお答えいただければ十分ですので。」