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君という呪い  作者: naco
第一章
8/21

8

どうも新しい父親が酒癖が悪く、よく物に当たるらしい。

幸いにも妻にも娘にも手は上げないらしいが、毎日のように家の中に怒鳴り声が鳴り響いてるようだ。

妻もそのストレスからか冷たくなり、家に居場所がない、と娘は嘆いた。

自分に何かできないかとは考えたものの、親権は妻に渡っている。

下手に何かをしたら娘にさらに不利になってしまう。

せめてもの思いで、こうして僕にいつでも会いにおいでと伝えた。

娘は小学生ぶりに見た無邪気な笑顔で「分かった」と言いその日は帰った。

やがて娘は高校生になり、それからの進路について話した。

娘は僕の住んでいる方の大学に進学して家を出る決意をした。

新しい父も妻も反対はしていないらしく、仕送りも送るから勉強頑張りなさい、と言っている始末だ。

本当に娘が邪魔で仕方ないんだろう。

娘は早く大学生になりたい、お父さんといつでも会えるようになるから。と焦る時間が増えた。

娘も年頃にも関わらず、浮いた話はなかなか出てこなかった。

どうも高校生はガキ臭い、らしい。

「私はパパみたいな年上で落ち着いてて仕事に熱心な人がいいんだ」といつも言っていた。

大学生にもなればそう言う人と出会えるさと励ました。

それも腑に落ちないようだったが「それもそうね」と毎回返してくるのだった。

こうやって普通の父親よりも遠いところから成長を見守って不幸な思いをしている娘を見ていると、早くいい男とくっついて幸せになってくれれればいいのにな、と心から思うようになった。

昔はどんな男にも渡したくないとは思っていたはずなのに。

そうこうして、高校3年間も可もなく不可もなく過ごし、娘は無事第一志望の大学に合格した。

そしてこの町にやってきた。

僕が言うのもなんだが、娘は綺麗だった。それでも高校3年間結局彼氏の一人もできず、僕に会いにくる回数は増えて行った。大学生になり家が近くなると、一緒に夕飯を食べたり、僕の家に泊まることも増えた。

そんな生活をしているから娘には相変わらず浮いた話はなかった。

「そうね、好きな人がいないわけではないんだけど、その人と付き合えることはないし、付き合うなんてその人が言ったら幻滅してしまうと思うのよね。」これは徐々に娘の口癖になった。

好きな人と付き合いたくない。偶像崇拝のような何かに囚われているようだ。これまで恋愛してこなかった反動だろう…。早いうちに痛い目を見て学んでくれれば安心できるが…。

こうして娘と過ごす時間も増え、ようやく家族の温かみを思い出した頃、私は一人の女性に恋をした。

常連として通っていた居酒屋で出会った女性だ。ちなみにこのお店ではない。

その人は愉快な人で、話すこと聞くことが好きで、一人で来ては色々なお客さんと話していたようだ。

とある日、その白羽の矢が僕に立った。

その日は娘とは会わない日で、少し早めの時間から居酒屋に顔を出した。するとカウンターで飲んでいるその女性に声をかけられた。

その女性は若い頃に結婚したものの、旦那に浮気をされてすぐに離婚をしてしまったようだ。

それからはなかなかいい人に出会うことがなく、一人の時間を謳歌しつつも人と話すのが好きで居酒屋に通っていたようだ。

お互い一度離婚していることから始まり、身の上話もかなり盛り上がり、その日は終電まで話し続けていた。

後日も居酒屋で会うと話す仲になっていった。僕たちが結婚するまでにさほど時間が掛からなかった。

それが今の妻だ。

僕に、前の家庭に娘がいることも承知で結婚してくれた。

僕と妻は一回り、娘と妻も一回りほど歳が離れていた。

娘とは姉妹のようになれるといいな、と妻は言っていた。

それが嬉しく僕は娘にそのことを伝えた。

親権や、娘の事情もあるが、自立したら家族のように過ごせるのではないかと思うと心から幸せな気持ちになれた。

しかし、そうはいかなかった。


娘は「そか。お幸せにね。私はパパたちの間に入って幸せの邪魔をすることはできないから。今までありがとね。私も私の気持ちにそろそろ素直になるね。」

そう言って去っていった娘の背中はとてもとても小さくなっていく気がした。


それから僕は、娘と会うこともなくなった。

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