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山本がよく行くという居酒屋に行こうと言うので何も言わずついていく。
結局私がここに連れてこられたのはなぜだろうこの話は二度とするなと釘を刺すためだろうか。それはなにか違う気がする。この話について詳しく話すため?それも何か引っかかる。
そんな余計なことを考えているとお店に着き、入り口で2人です〜。あら珍しいですね〜という山本と店員のやりとりを聞き案内についていこうとすると「あれ、沢田さん?」と声をかけられた。店員に。
考え事をしていて周りに目が向いていなかった。呼ばれた方を向くと笹川がいた。
全く気づかなかったが、先日奈々と来た居酒屋だと言うことに今更気づいた。
いや、そんなことはどうでもよくて、この店だったのか。また来にくくなってしまった。プライベートで仕事の人に会うのはなんとなくいやだ…。
「あれ、笹川くんと知り合いなの?」山本は嬉しそうに話した。
「あ、まぁ、そうですね…ちょっとしたご縁があったので…。」
「へぇ〜そうなんだね!」
「山本さんこそ沢田さんとお知り合いだったんですね。もしやただならぬ関係だったり?」笹川も嬉しそうに返した。
「ちょっと〜そんな怪しいこと言わないでよ〜。沢田さんは会社の部下ってだけだよ!」山本は少し慌てながら正す。
それに私はコクコクと頷いて応えた。
笹川も冗談ですよと言いながら席に案内する。たまたま空いていたらしく店の端の方の席に案内された。
2軒目と言うこともあり、山本も私もビールではなくウーロンハイを頼んだ。笹川は他のお客さんにつかまっているらしく、その後はあまり席に来ることはなかった。
「それでね、沢田さん、さっきの話の続きなんだけど、聞いてもらっていいかな?」
「あ、あの、いや、ちょっと待ってください。さっきは私が場の雰囲気悪くしたからと思って聞いたほうがいいのかなと思っていたんですが、これは本当に私が聞いたほうがいい話ですか?それとも山本さんの自慰に付き合わされるだけですか?」素直に先ほどまでの疑問をぶつけることにした。どちらにせよ聞くだろうが、やはりどのような気持ちで聞くべきなのかははっきりしておきたかった。
「ああ、ごめんね。いろいろ考えさせたみたいだね。でも若い女の子が自慰とか簡単に口にするのはよくないよ。」
まさかそんなことを突っ込まれるとは思わず、吹き出しそうになってしまった。そのまま山本は続けた。
「そうだね…う〜ん。娘と沢田さんが似てるからつい話したくなったのかもしれないね。」
「そうですか…。」なんだか複雑な気持ちになる。
「沢田さんの性格なら僕の話を聞いても今まで通りでいてくれると思うんだけど、聞く覚悟がなければおすすめの居酒屋を紹介しに来たってことにするよ。って言っても沢田さんはここに来たことがあったんだね。」
山本は少し寂しそうな表情を見せた。それなりに優しいが取り柄の私の心議会に任せると聞いてみようと言う意見の方が多かった。
「えっと、じゃあ、このウーロンハイ1杯飲み切る間に覚悟します。それまで待ってください。」そう言い、アルコールの力に任せることにした。とは言いながらも一気に飲み干すと話して言いと合図を送った。
山本も深呼吸を一度して心の準備をした。
「それじゃ、話すよ。」
僕はある程度名の知れた大学を出て、ある程度名の知れた企業に就職して、それなりに幸せな家庭を築いた。
家に帰ると娘が迎えてくれて、休みの日には家族で出かけて…。
次第に仕事は忙しくなった。
残業が増え、家に帰るのはいつも23時を回った。
もちろん家族は全員寝床につき、冷め切った夕飯が一人分食卓にラップに包まれ置かれていた。
娘が大きくなるにつれ家族で出かけることも少なくなり、娘が小学3年生になるころ、妻から離婚届を見せられた。
それから2年修復を試みたものの、結局うまくいかず、離婚が決定した。
娘は妻の方について行った。
僕は唐突に一人になったが、今までも一人で夕飯を食べ、一人の時間は結婚した後にも増えて行った。だから寂しくない。そう思っていた。
しかし、喪失感は長いこと消えなかった。
虚な毎日を過ごした。
それでも娘とは月に二度ほど会っていた。
それだけが癒しだった。
それしか日々の活力はなかった。
娘とはダイリンでホットサンドを食べながら最近のことや悩み、新しい家庭について話した。
僕は長いこと一人で過ごしていたが、娘が中学に上がる頃、妻は再婚をして娘はそこで暮らしていた。
そこから娘は徐々に元気を失っていった。