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君という呪い  作者: naco
第一章
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2

愛だの恋だのはあまり興味ない。全くないわけではないが、同じ年頃の女性に比べたらあまりないと言うのが妥当だと思う。でもそれでも好みの顔って言うものはあると思うし、目の前にそんな物がポツンと存在したら、さっきまで考えていたことは全て吹っ飛んだ。

それでもこの暑さが変わるわけはなく、私は後から考えればなんてことを…と思うような発言をしてしまい、さっき通った道を男と歩いていた。「アイスが落ちたので一緒に買いに行ってもらってもいいですか?」私は確かにそう言った。

男もぶつかってしまったことに罪悪感があったのか、二つ返事でついてきてくれた。一緒に買いに行こうとは言ったものの、ただ顔が好みであっただけで、会話という会話もほとんどなかった。


コンビニに着き、私が欲しいアイスを選ぶのを見届けると、男は黙ってお会計をしてくれた。奢って欲しかったわけではないが、先ほどのアイスの気持ちを考えると、このくらいはありがたく受け取ろうという気持ちになれた。決して私のためではない。


コンビニを出てお礼を言って帰ろうとすると、男は、「もし良ければタバコ付き合ってくれませんか。」とぽそりと呟いた。最初、私に声をかけているとは思わず行こうとしたが、明らかに人に話かけている言葉だった。

危うく、相手のせいとは言えアイスを奢ってくれた人を無下にするところだった。それなりに優しいが取り柄の私の経歴に傷をつけるところだった。


暑いからいやだなぁと思ったのが顔に出ていたのか、「コーヒーも奢りますよ。」と駅前の喫茶店を提案された。いつも通勤の際に通る喫茶店である。いかにも古く、怪しく、そして貧乏くさい、よく言えば昔ながらの喫茶店だ。

今言った通りの見た目のため、一度も入ったことはないが、せっかくの機会だと思ってついていくことにした。決して顔が好みだからとかではない。


怪しげな喫茶店の名前は「ダイリン」と言うらしい。看板も汚くて名前も知らなかった。意味もなさそうな名前だ。どうせマスターが大林とかなんだろう。

中に入ると、窓際の席に座った。いつも座っているのだろうか、初めて見たのにガラスの靴がシンデレラにピッタリハマった時の王子の気持ちのように、しっくりきたように感じた。


男は座るなり、何飲みますか?ここはホットサンドがおすすめなんです。これも僕が出すので食べませんか?と立て続けに話し出した。言葉が少ないわけではないがなにか少し暗い人のように感じる。

いくら涼しい店内とは言え、さっきまで猛暑の中外にいたのだ。ホットサンドなど食べる元気はなく、「アイスコーヒーでもいいですか。」と応えた。男は「それもそうですね。」と苦笑を浮かべ、マスターに注文を始めた。

店内は日光をしっかり取り入れ明るいものの、外装と同じでなにか古臭さを感じた。マスターの名札にはやはり大林と書かれていた。安直な。

「あ、そう言えば、お名前聞いてませんでした。」男は表情を変えずに言った。

「えと、沢田とでも呼んでください。」男の少し暗いと言うイメージは、表情がほとんど変わらないところにあると言うことに会話という会話をしてようやく気づいた。

「呼んでくださいって。本当は沢田さんじゃないんですか?仮名ですか?沢田さんね。沢田何さん?」私の発言をジョークか何かと勘違いしたのか少しニコッとしながら答える。好みの顔だからか笑顔が輝いて見えたが、それでもなにか闇を感じるような、暗い表情に見えた。

「沢田京子です。」

「京子さんね。僕は笹川。よろしくね。」そう言うと笹川はスッと右手を差し出してきた。その目的が分からず、私も右手を差し出した。お互いの右手は空中で睨み合う。笹川は耐えかね吹き出した。

「握手だよ。握手。」

私はそう言われると恥ずかしさを紛らわせたくて笹川の手をガシッと握った。多分顔は真っ赤だろう。ウブだからではない。ただ握手と気づかなかった私が恥ずかしかった。


こんな会話をしているとマスターがアイスコーヒーを二つと、パンを斜めに半分に切ったホットサンドに湯気を立ち上らせながら持ってきた。


「結局ホットサンドですか?」

「僕、ここに来ると毎回食べてしまうんです。涼しくなったら是非食べるといいですよ。」

「そうですね。機会があれば…」とは応えたものの、こんなところにまた一人で来るかと言えばそんなこともないし、わざわざきたら笹川に会いにきてるのではと思われるとなんか悔しいしな…とひねくれた性格が表に出てきてしまった。

その心理を見抜いたのか、笹川はこの喫茶店について深掘りして話すことはなかった。


その後は他愛のない会話が繰り広げられた。お互いに特筆すべき趣味もないことが幸いし、逆に内容のない会話で盛り上がった。詳しくもない現代ニュースについて浅い知見をお互いに述べてみたり、最近ふと思いついたこととかそんな話ばかりだったがそれが心地よく感じた。まるで高校生の頃のお昼休みに戻った気分になった。

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