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君という呪い  作者: naco
第二章
15/21

7

いつも通りの土曜日。

もう夕方にもなるが、トイレ以外でベッドから立ち上がった記憶がない。

9月も半ばに差し掛かり、夏も終わりに近いはずなのにいまだに暑さは終わらない。ショートパンツにタンクトップと言っただらしない格好でスマートフォンとテレビを交互に見つめていた。


笹川とカラオケに行ってから2週間経った。

やはりあれから連絡も取らず、モヤモヤした日々を過ごしていた。

先日笹川の家に行った時の蟠りは解消できたものの、この前の奈々と笹川のやりとりで生まれた蟠りはまた新しくできてしまった。

笹川との間は一筋縄では行かないようで、イザコザが絶えないようだ。

今時の女性なら我慢できなくて関係を切ったり、逆に運命の出会いだと思って気合を見せるのであろう。

でも私は無気力な人間だから、行動もせず、ただ静観しているのが性に合う。自分のことなのに静観って言うのもなかなか変なものではあるが。


あの日、笹川は「呪い」という言葉と一万円札を残して帰って行った。

奈々は「悪いことしちゃったから」と言ってその一万円札を私に託し、2人で会計をした。

多分、私に渡しなさいと言った想いも込められているのだろう。

それでもなかなか笹川に会うことはできず、一万円札はずっと机の上に置いてある。会うことができないと言うより、会う約束をこちらからする勇気がないだけだ。


夕飯どうするかな、とボーッと考えながらスマートフォンを見つめる。笹川と初めて出会った日に話した芸能ニュースの続きが出ていた。勝手に笹川との思い出を作っては勝手に思い出して何か失った気持ちになる。


俗に言えば恋をしていると言うことになるだろう。私にもその自覚はある。なにせ笹川の家で発した言葉もある。だからこそ、下手に笹川に顔を合わせられないでいた。


このままいつも通りの日々を過ごしていれば笹川のことも忘れ、元に戻れるのかなとは思う。

どうしたものか。


そうやって結局笹川のことを考えてはボーッとしていたら、スマートフォンに一件の通知が入った。

いつも通りゲームか何かの着信かと思いながら通知を見ると、思いもよらないものでスマートフォンを投げ出しそうになった。


通知の主からは「ちょっとこれからお話ししませんか?」と来ていた。

通話するのか、会って話すのか、よくわからなかったが、その後に「ご飯でも食べましょう」と付け足された。

ひとまずだらけ切った体にまとわりついた汗を流し、人前に出られるようには化粧をしなくてはいけない。少し時間がかかる旨を伝えたらそれではあとで時間を教えてくださいとの返事が来た。


支度を終え駅に向かうと、途中で待ち合わせの相手に出会した。

「最初に会ったのここでしたよね。」

そこはアイスを落として初めて会話を交わした場所だった。

「あ、なんかストーカーみたいでしたかね。」苦笑いしながら笹川はそう言った。

お互いに意地になっていたのか、それとも普段から人と連絡する質じゃなかったのか、今まで動くことのなかったアプリが初めて動き、初めて約束をして会いに来た。

本当であれば女性らしくキャピキャピ喜びたいところだが、私の性格と、前回の一件でそうはできなかった。

前回の一件と言えばと思い、先ほど机から持ってきた一万円札を出すと、笹川はそれを受け取るのを両手で断った。

「この前はどっちにしてもおごるつもりだったんでいいですよ。あ、そうだ、今日のご飯はそれで食べましょう!」と、笹川は付け足した。


今日は肉より魚が食べたい、と笹川は駅前の海鮮が美味しいと噂の居酒屋を目指し歩き出した。

あくまで噂だ。と言うのも、笹川はよく行くとは言うが、私は行ったこともない。なにせ、ダイリンと同じように少し怪しげな雰囲気のお店だからだ。


「あれから何か変わったことはありましたか?」笹川はかなり話題に困ったのか、当たり障りのない話題を出した。申し訳ないことにたった2週間で変わったことなんて起きることもなく、毎日いつも通りの仕事をして、いつも通り家でだらだらする週末だったことを伝えると、笹川は一言「それはよかったです。」と応えた。

確かに、不幸なことが起きていないと言う意味ではいいのだろうが、逆もまた然り、起きていない。だからそれがよかったと言うのがなんとなく不思議で吹き出してしまった。

それに対して笹川は「ラッキーなことが起きればそれはもっといいですけど、不幸なことが起きないこともいいことなんですよ。」と言った。そして「僕はもう不幸なことはそれなりに経験したので。」と付け足した。


そうやってこれまで通り、中身のない会話を繰り返していると、目的の場所へたどり着いた。

相変わらず怪しげな店で、笹川のように勧めてくれる人がいなければ入るのも躊躇うほどだ。外装は薄汚く、看板も色あせている。表にいくつか酒のポスターが貼ってあるが、どれも古く所々破れていた。

「ん〜。見た目は相変わらずですが、味は美味しいしコスパもいいんですよ。入ってみないことには始まりません!では、入りましょうか!」

笹川はそう言うと店のドアを開けた。

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