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君という呪い  作者: naco
第二章
12/21

4

「あら、沢田さん。今日はお一人ですか?」お店に入ってカウンターに案内され、席についた瞬間声をかけられた。知り合いなんていないと思って、いや、むしろ何も考えず入ったものだから、誰かに声をかけられるとは思わず、変な声が出そうになった。

「あ、山本さん。お、お疲れ様です。」

あの二次会以来、山本とはなんとなく気まずく、少し距離を取っていた気がする。山本もその気配を感じたのか、話しすぎたと思ったのか、これまでよりは遠慮を感じていた。

出逢ってしまったからには、お互い1人でって言うのも微妙なものだ。

私は山本の隣に座る。何か頼みますか、と、山本を挟んで向こうにあったメニューを私の前に並べてくれた。

「今日はどうしたんですか?」

「ん〜。どうもしませんよ。」

「そうですか。なんかこうして沢田さんと話すの久しぶりですね。この前は申し訳ございません。」山本はやはり気になっていたようで、その場で軽く頭を下げた。気にしないでくださいと頭をあげるよう促していたらちょうど店員が注文を取りに来た。最近この人よく見るなと言った感じの顔をされたが、私は全く記憶にない。案外店員側が覚えているものなのだな、と感心した。

つまみを食べながら、注文した日本酒に口をつける。香りがよく、味もなかなか癖が強く、美味しい。語彙がなくて、うまく表現できないのが悔しい。

「沢田さん日本酒も飲めるんですね。渋いなぁ。」

「そうですかね?山本さんは日本酒は飲まれるんですか?」

「まぁ、ボチボチですかね。でも沢田さんが飲んでいるような辛口よりも、すっきりしたやつが好きですね。」

「ああ〜。私こう言うの好きなので、昔から周りにおっさんって言われます。」

「いやいや、いいと思いますよ。美味しい好きなものを口にする時が、人間一番幸せな気がしますし。」

「ですよね!なので折れたことないです!」

「素晴らしい!」

2人での会話は大した内容もなく、最近仕事どう、とか、お家で何してる、とか、そう言った世間話程度だった。人によってはなんで仕事じゃない時間に会社の人と仕事とかプライベートの話をしないといけないんだ、って声も上がったりするものだが、山本は基本聞いてくれるだけで喋るタイプではないから、独り言をただ垂れ流しているようで落ち着く。山本も「1人でしっぽり飲むつもりだったんですが、やはり人の話を聴きながら飲む酒の方が美味しいですね。」と言っていた。


ただただ自分が話しながらお酒を飲むと、何か溜まっていたような物が一気に開放されて気分がよかった。

帰ろうかなと言う時間になる頃には笹川とのやりとりは忘れていて、帰ったらグータラするぞーとか、そんなことばかり考えていた。


山本はまた飲みましょうね、とは言うが、「あまりプライベートの付き合いをすると会社にいづらくなるんですよ。女性社員が怖くて。」と言うと、「なぜですか?」と山本が問う物だから天然ジゴロは怖い物だな、としみじみ思った。

それでも、わだかまりのような物はなくなり、いい上司でありいい飲み友達のような山本にまた誘われるのは感謝だ。機会があれば山本の話ももう少し聞いてみたい。

「今日は付き合っていただいてありがとうございました。」と深々とお辞儀をしたら、「いいえ、こちらこそ。」と深々とお辞儀を返されてしまった。私は相変わらず慌てながら頭を上げさせると、お互いに逆方面に歩き出した。


いくら図太い私でも、前回の話を聞いてからは距離を置かずにはいられなかった。人の過去を知ってしまうとどうしても深く関わってしまいそうで逃げ腰になってしまう。

聞いていて、色々と疑問は残ったし、何か引っかかっている感覚もあるが何が引っかかっているのかも分からない。

山本は、このことについて深く関わって欲しいわけでもなさそうだったし、これは私の中で留めて、確認はしない方がいいと思っていた。だから距離を置いてしまっていた。

でも、やはりいい上司であるのは変わらず、今日のような時間があってよかったと思う。一石二鳥の気分で帰路についた。これからもまたあそこで会ったら話し相手になってもらおうとは思いつつも、1人で飲んで帰ることもあまりないため、そんな機会も当分、いや、もしかしたらもうないだろうなとも思った。


何より、あのお店では笹川に会うのが気まずい。それに尽きた。

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