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君という呪い  作者: naco
第一章
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「これは呪いなの。」


この言葉がずっと脳から離れない。心に染み付いて落ちない。


とある日のとある場所のとある昼の出来事。


彼女はこの一言を放って、僕の見ている景色から唐突に姿を消した。

私が東京に来て早5年。東京の街並みにも慣れ、この喧騒がないと寂しいものになってしまった。

道ゆく人は皆虚にどこかを見つめ、他人の動きを見ているわけでもないのにぶつかることもなく歩き続ける。

まるで磁石のN極とN極のように。

かくいう私も、磁石のN極が入っているのだろうか、片手に持ったスマートフォンを見つめながら歩いても、人に、何かにぶつかることもなく歩を進めることができている。

二人手を繋ぐカップルはN極とS極なのだろうか。必要以上にくっついて歩く若者が多い。こんな暑い日差しの中、プライベートゾーンを超えられるなんて暑苦しくて許しがたい。見ているこっちがバテそうだ。

いつもの道をあちーあちーなんて呟きながら歩く。そう呟いたところで地球温暖化が止まるわけでも、もっと小さな話、今日の気温が下がるわけでもないのは分かっていても、気を紛らわすのにはちょうどいい。スマートフォンじゃない方の手に持ったアイスも溶けて垂れ落ちる。そのくらい暑いのだから、何を言って気を紛らわせたとて、神様も気にも止めないだろう。

コンビニから自宅までは歩いて5分くらいの距離だ。駅からさほど遠くない自宅故に、たったこれだけの距離でもなかなかの人が歩いている。脳が茹で上がるほど暑い夏の土曜日に、コンビニにアイスを買いに行く以外に外を出歩くだなんて気が知れない。道ゆくカップルたちに心の中ですごいっすね〜と一言簡単な賛辞を送ってみた。


社会人になり、暇な時間は大学生の頃よりも増えたように感じるものの、特筆すべき趣味もなく、休みの日は家で横になりながらスマートフォンとテレビを行き来してただ堕落した生活を送ることが習慣になっている。

スマートフォンも何かゲームをやっているわけではなく、SNSやニュースサイトをただ見つめながらやれ今時の政治は、やれ芸能界はだの、生産性のない情報収集を行っているだけだ。この道すがらも同じことを繰り返している。


かと言って、生きているのが辛いとか、仕事がしんどいとか、友達がいないとか恋愛したくないとかそんなことはなく、基本的に無気力、ただそれだけなのだ。この生活が心地いい。平和に、誰かに害されることもなく生きているのが心地いいんだ。


家まであと半分ほどのところで、一本目のアイスを食べ切ってしまった。2本目を食べるか迷う。こんなに暑いのだ。永遠に冷たいものを食べていたい。それでようやくこの暑さに勝てる気さえしている。そうこう考えながら左手にかけたコンビニのレジ袋から2本目のアイスを取り出す。片手に持ったスマートフォンが邪魔で開けられない。スマートフォンをレジ袋にしまい、アイスの袋を開けようと立ち止まる。

直後、背後から大きな衝撃を受けた。直後は言いすぎた。アイスの袋は開け切っていた。そのタイミングが許せなかった。これからこの暑さと闘うための術であったアイスはあっけなくアスファルトに食べられてしまったのだ。

「す、すみません。」頭の上から声がした。そのまま上を見上げる。顎があった。人間の。それはそうだと思いながらもはたしてなんと返すべきなのかと考える。「お前のせいで大事な私の生きがいが!」とでも言うべきか。そこまで大事なわけではない。かと言って「気にしないでください!」などと言えたものか。これから私の火照り切った体を冷やしてくれる天からの恵物がただの無機質なアスファルトに食べられてしまっているんだぞ。私はユーモアの溢れる人間のはずだ…など、余計な思考を巡らせながら私は振り向いた。

ここでまた衝撃が走った。今回は物理的な物ではない。

そう、私にぶつかった男は好みの顔だったのだ。

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