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異端、騎士を目指す  作者: 柳瀬 ルカ
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二日目 ルーカス



 翌日。

 眠り姫先生に聞くのは諦め、隣の席の糸目の男子に生徒会室の場所を聞くと、親切にも案内を買って出てくれた。

 どうやら怪力先輩とも知り合いのようで、名前をクシェルと言った。


 トントン

「1年、クシェル、ルーカスを連れてきました。入ります。」

 貴族には入室の順番にもルールがあるのだろうか。

 クシェルはドアに手をかけたが、一旦その手を外しこちらを顧みると先に入るよう勧めてきた。


 ドアを引くとその瞬間、勢い良く白いものが飛んできた。

 粉末状のそれに俺は、咳き込む。

「しょっぱい。」

 塩だった。

「先輩はまだ俺のこと幽霊だと思ってるんですか!」

「だって、生きてるわけ無いじゃん。」


 部屋にはいくつかの机があってそれぞれ書類が積まれていた。

 その中で一番散らかっている机から、先輩は頭だけを出してこちらをじっと観察していた。


「あれ?クシェルも一緒だったの?」

「入室の時に言いましたよ。」


 遅れて入ってきたクシェルは全く塩を被った様子はない。

 まさか、入る順番譲ったのって、、

「ああ、なんかモノが飛んできそうな予感がしたので。塩だとは思わなかったけど。」

 ルーカスの視線に気づいたクシェルは説明する。


 先輩は「相変わらずいい性格してるのね。」と言った。

 確に部屋に先に入るように促したのはクシェルだったが、塩投げつけた当人が言うセリフではないだろ、と俺は心の中で思った。

 

「あなたにはいろいろ聞くことがあるわ。ちょうどいい。クシェルもいて聞いてて。」

 そうして、ルーカスを幽霊と断定したまま尋問が始まった。



 一時間後。

 物理能力を使って鉄パイプを動かしたことを告白することで、ようやく幽霊の疑いを晴らすことができた。

「あんな貧民街に能力持ちがいるとは思わなかったんだもん。いや、でもこの学校に通っているってことは実は貴族だったりする?」

「いや、あそこら辺に住んでます。」

「だよね。学校から名簿を拝借したから、わかってたけど。確認したかったの。」

 それは合法的にだろうか。


「そんな君にお願いがあります。」

 先輩は改まってこちらに向き直る。

「護衛の任務を頼みたい。」


 真っ先に反応したのは今までの話を黙って聞いていたクシェルだった。

「それは機密ですよ。」

 鋭い警告の声だった。


 それでも意に介さず先輩は言う。

「現地での任命権は私に委ねられてる。大丈夫だよ。彼は適任。今の思いつきだけど。」

 先輩のはっきりとした断定口調に、クシェルはそれ以上口を挟まなかった。


「実はこの学校に通っているのは貴族だけでなくてね、今年度は王族もいるの。最近お披露目されたお方。あなたの能力を見込んでその方の護衛を頼みたい。」

「先輩は護衛なんですか?」

「そう。本当は私もクシェルも警察学校の生徒なんだけど、この仕事が入って交換留学ってことになってるわ。」

 先輩が警察学校の生徒という推測は合ってた。


「その方の名前は?」

「引き受けてくれるなら教える。どう?やってくれる?」

 先輩は顔をズイと近づけ、じっと見つめる。

 引き受ける理由もなければ、断る理由もないというのが正直なところだった。


「まあここまで聞いて断ったら、能力使用を学校にバラすけどね。」

 後ろからのクシェルの冷たい声。

 クシェルはかなり合理的な考えをするタイプらしい。

「拒否権はない、か。」

 未成年による能力使用をバラされたらよくて退学、最悪懲役刑だ。


「でも、悪い話だけじゃないよ。引き受けてくれるなら授業料はこっちで持つ。どう?」

 先輩はあくまでお願いの姿勢を崩さない。


「謹んでお受けいたします。」

 結局俺は護衛を引き受けた。


「お名前はねサシャ様よ。あなたとクシェルと同じクラスの。」

 聞き覚えのある名前。

 と言うか昨日会ったあの美少女だ。


「女の子……。」

「それ、あの方の前で言わないほうがいいかも。あと、護衛は周りにバレないようにね。サシャ様にはあたしから言っておくから。能力使用も許可します。」

 俺は頷く。


「じゃ、よろしくね、えーと、」

「あ、ルーカスです。」

「よろしくルーカス。私は、ニーナ。」


 挨拶をして部屋を出る。

 ニーナ先輩とクシェル。

 二人ともそれぞれ別の方向に、なんとなく危険な香りがする。

 鈍感なルーカスでも感じた。


 ニーナ先輩は人当たりが良さそうだが、任務となると優先事項以外は迷わず切り捨てる人だと経験していた。

 クシェルは目的のために持てる手段は全て使うタイプだから敵に回したくない。


 入学してからすぐに次々と新しいことが舞い込んできて大変だ。

 環境の変化って疲れる。

 俺は、小さくため息をついた。







「それで?あの怪力少女とは話せたの?」

 大好物のシチューを食べながらエリアスが聞いてくる。

 俺は、ああ、と頷くと名前と変わり者ということだけ伝えた。


 王族云々は機密だからだ。

 それに、エリアスが王族に並々ならぬ感情を抱いている様子を今までに何度か見てきた。

 その理由はわからないが、あまり刺激しないほうがいい、そう思ったというのもある。

 単に愛国心が強いだけかもしれないが。


「ニーナ先輩っていうのかあ。というか、交換留学?そんな制度があったんだな。俺も先輩追いかけてお前の学校に通おうかな。」

「やめろよ。俺の穏やかな日々にエリアスは入り込むな。」

「ひどいな。」

 ケラケラ笑いながらエリアスは食器を片付ける。


「大丈夫。サシャをとったりしないから。」

「いきなり呼び捨てかよ。」


 エリアスは確に俺の恋人を奪ったことなどないが、他の人とは何件かトラブルを起こした前科がある。

 身長も早く伸び、見た目に気を使っているエリアスは黙っていれば大人っぽく、実際年齢より5歳位上までなら偽ることもできた。

 そのため、恋愛経験が年の割に多い。

 エリアスと女の子を取り合う戦いなんて勝ち目がない、と奥手の俺は常々恐れていた。


「お前本当に女性関係のトラブルおこすなよ?」

「ないない。警察学校の女の子なんてみんな怖いんだから。」

 肩を竦めながら渋い顔をする。

 何かあったのか、そう聞こうとしたところでエリアスが眠そうな顔をしていることに気づく。

「おやすみ。」

「ああ、おやすみ。」

 豆電球を消した。

 すぐに聞こえてきたエリアスの寝息に俺は表情をゆるめた。

 エリアスもとても疲れてるみたいだ。

いつの間にか評価をもらってました。

してくださった方、本当にありがとうございます。

努力してまいります。

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