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異端、騎士を目指す  作者: 柳瀬 ルカ
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入学式 1 ルーカス

「我がクローツェル校へようこそ。我々は新入生を歓迎します。これからわが校で過ごす6年間が皆にとって実りのあるものとなるよう心から願います。」


 春。

 俺は、クローツェル校の入学式に出ていた。


 中等教育機関、つまり13歳からのエリート校といえば、クローツェル校の他に2つの私立名門学校と警察学校がある。

 そして、私立の名門校とは騎士を養成する学校だ。

 全て6年制で、いずれかの学校へ入れば王国での将来は約束されると言われている。


 実際のところは、将来を約束されている貴族の子息がお金に物を言わせて入学しているのだが。

 そんな中で俺のような貧民街出身は他にいないだろう。

 貴族のフリしていこう、うん。



「はあー、つかれた。」

 入学式が終わり、整列して講堂を出ると俺は大きく伸びをした。

「こら、そこ。気を抜かない。」

「はーい。」

 すぐに誘導してくれている先輩に注意された。

 さすが多くの大貴族が通う学校。

 礼儀作法にはうるさいみたいだ。


 と、何かがひっかかった。

「なんか、聞いたことあるような声……」

 俺が声の主を見ると目線がバッチリ合った。

「「ああー!」」

「あの時の怪力……」

「なんで生きてるの、幽霊?!」

 それは、あのパレードの日に遭遇した、ツインテールの怪力少女だった。

 先輩だったのか。


「ちょっと話があるから放課後生徒会室に来なさい。」

 先輩は自らの頬をつねって、何も変化がないことを確かめてから言った。

「それと、誰か塩持ってない?」

 もしかして、俺のことを幽霊だと信じているのか。

 先程からの大きな声ですっかり注目を集めていた先輩は、皆が首を横にふるのを見届けると、俺から目を逸らして誘導の仕事に戻った。



 そして、放課後。

 生徒会室に行こうとして道に迷った。

 というのも学校の地図に生徒会室などなかったのだ。


「あの、生徒会室ってどこですか?」

「あっちー、まっすぐー、つく。」

 クラス担任に尋ねたが、全く宛にならなかった。

 眠り姫という愛称があるらしい。

 そういえば、質問した時も目が開いていなかった。

 結果、裏庭らしきところに辿り着いた。


 そこには、先客がいた。

 そのうちの一人はこの学校の制服を着た美少女だった。

 一つにくくった黒髪に、陶器のような白い肌。

 何より目を引くのは澄んだ蒼い目。

 ただ、様子がおかしい。

 というか、臨戦態勢のようで、剣を構えている。


 少女の視線を辿ると、いつか見たような黒ずくめの男が2人。

「そこまでだ。」

 俺はエリアスのように心理系能力で悪意を看破することはできない。

 ただ、状況からどっちに味方すべきかは明らかだ。


 剣を腰から抜くと少女を背中に匿う。

「女の子は隠れていて。」

 小声でここから逃げるように促す。


 何も言わずこちらの様子を注視していた男たちだったが、どちらからともなく動き出す。

 法律で禁止されている能力の使用は最後の手段だから今は考えない。


 お互いの間合いに入るその時。

 完全に想定外の後ろから引っ張る力に、俺はよろめく。

「何するんだよ!」

 俺を引っ張ったのは、その美少女に他ならなかった。


「馬鹿にしないで。そんな柔い剣の人に守られる筋合いはない。」

 そう言い俺を押しのけ、真っ直ぐに男たちに向かっていった。


 その美少女が相手2人を制圧するのに5秒もかからなかった。

 足元には両手首がオカシナ方向に曲がり、気を失っている男たちが転がっている。


 ルーカスは、少女の剣の軌跡に見惚れていた。

 その、無駄も隙もない美しい剣技は、並大抵の努力とセンスでは成しえないものだった。


「すごい。」

 やっとのことで言葉を絞り出すと少女は振り返る。


「あなたよりはね。」

 動いたことにより微かに頬を上気させながらも、息は切らさずに少女は言う。

 あんな立ち回りを見せられたあとではぐうの音もでない。


「だってあなた、剣を全く振ってきてないことが、構えから透けて見えるわ。」

 彼女の言うとおりだった。

 俺はこの学校に入るにあたって必要に迫られ、愛用のナイフたちを置いて、初めて剣を手にとったのだ。

 それにしても、あの一瞬で見分けられるものなのだろうか。


 ただ、俺は言い訳がましく聞こえるとわかっていても黙っていられなかった。

「これからうまくなるさ君よりも。」

「それは楽しみにしています。」

 少女は少し驚いてそれから挑発的な笑みを浮かべる。

「ああ、やってやるさ!」

 怒ったようにも聞こえる語調で答える。


 実際のところ、俺は彼女の振る舞いに爽快感すら感じていた。

 彼女は自信に溢れていて自分を高みにおくが、相手を見下したり陥れたりはしないと思えたからだ。

 けれども、それを認めて表に出すほど俺は大人でも素直でもなかった。

 要するに、彼女への挑戦的な態度は小さな意地だ。


 この人に認められたい、そう思った。

 

「俺は1年のルーカスです。あなたは?」

「私も1年、サシャといいます。これからよろしく、ルーカス。」


 こうして二人は出会った。

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