月が綺麗ですね。
「夏目漱石ですか?」
春風さんの言う『 月が綺麗ですね 』を検索してヒットした人物について、私は春風さんに問いかけました。
「ええ…そう。昔、英語の授業で学生に『I love you』の日本語の訳し方を聞かれて、漱石が、
『日本人は、君を愛す…なんてそんな言い方はしない、
月が綺麗ですね。とでも訳しておきなさい』と、言った…なんて逸話があるの。
でも、70年代に作られたデマで漱石は、そんな事を言ってないらしいわ。
でも、このデマを作った人は、とても洒落ていて、文学が好きだったのでしょうね。
このエピソード、今でもたまに誰かの物語に引用されるのよね。」
春風さんはそう言って、夢見るように目を閉じた。
私は花束をプレゼントするように、コールの歌う『fly me to the moon』を再生した。
コールの歌声だけが支配する穏やかな空間の中で、私は新しい言語の処理を始めました。
英語圏のドリスやコールは、『月に連れていって』と『I love you』を表現し、
日本語圏では、それは『月が綺麗ですね。』になる。
良くはわかりませんが、春風さんのデーターに私は、そう書き込みました。
そして、曲が終わる頃、春風さんにこの新しい言語の扱いについて質問をしました。
「一つ、聞いてもよろしいですか?」
「え?いいわよ。」
春風さんは、甘い物思いから覚めたように私を見ました。
「先ほどの『I love you』の変換についてですが、
『私を月へ連れていって』なら、自分の希望なので、24時間使えますが、
『月が綺麗ですね。』は、月が無ければ発言できませんよね?
新月の夜や曇りの時はどうしたら良いのでしょうか?
あと、この言語が使える環境の制限についても教えてもらいたいです。」
私の質問に、春風さんは驚いたように目を見開いて、少し脈拍をあげながらしばらく沈黙し、
それから爆笑をした。
私は理解不能なその笑いに不愉快な顔を作り、春風さんはそれを見て慌てて説明を始めました。
「ごめんなさい。笑ったりして…でも、考えた事も無かったの。
新月の月を…昼間の月を見上げて『月が綺麗ですね。』と、言う場面。
なぜか…宵闇の満月が当たり前のように思っていたから。
でも…そうね。
昼の月を見上げて『月が綺麗ですね。』って、恋心を伝えられるのも、少し楽しいわ。
何か、明るいラブコメを想い描いてしまうわね。」
春風さんはそう言って、楽しそうにまた、笑いだしました。
私は、少し困った顔になりながら、
「版師と吟師の前に、春風さん、私には、あなたの表現が一番不可解です。」
と、伝えた。
静寂、これを「せいじゃく」と、読んでくれない。意外。
Siri、いきなり「」で始まると、読み方がおかしくなる。が、前部分に何かを書き加えると良くなる
花束をプレゼントするように、なんて、人工知能が言うか、少し迷ったが、課金ゲームのキャラ設定なのでそのままにする。
なかなか、人工知能の思考を掴むのは難しい
でも、春風に新月の夜の質問をしたところは、なんだか好きなシーンである。
ミズキの表情は、どうコントロールされてるのか?
不愉快になるとは、どんな環境でおこるのか?
書いていて謎だが、まあ、今回は保留。