海賊で卒業!?
神様というやつらはきまぐれなものだ。
自分が作っておきながら、気に入らないという理由で、世界を沈めてみたり、気に入ってるやつだけ助けたり、ひいきしたり、浮気したり、様々だ。
そんなきまぐれに僕たち人類は翻弄されている。僕こと九鬼義隆もその1人だ。
僕は神ゼウスがたまたまくしゃみをして、その反動でビルが崩壊し、それに巻き込まれ、命を落とした。何とも不運である。
そして、違う世界ではお金持ちとして、転生させてくれると約束してくれたのだが、、、
「ぎゃあ!!」
「いけー! うばえー!! 殺せー!」
怒号と悲鳴が入り混じり、戦場は混沌していた。
しかし、場違いかもしれない。こんなこと今言うべきではないのかもしれない。だが、僕はあえて言おう。
「約束が違う!」
お金持ちにしてくれて、女の子と遊ぶお金をくれる約束ではなかったのか。
「おかしいなー、お金持ちの家に生まれると思ったんだけどなー」
そう言ってあらぬ方向に視線を送り、僕の顔を見ないように努めている古代ギリシア風の衣装まとった男が神ゼウスが隣にいた。
「君が向いてる最適な職業が商人だと思ったから、この世界を選んだのにねー、この世界に君は商人よりも海賊に向いてると判断されたらしい」
「どいうこと!?」
もはや意味がわからなかった。世界に判断されたとはどういうことなのか。
「この世界は予定説という理論で支配された世界でね。人々が就く職業は予め神が決定しているという世界なのさ」
「だったら、なんで僕は商人じゃないんだ!あんたが決めるんじゃないのか?」
「僕は神って言っても予定説を操作してる神じゃないからねー。管轄外なのさ。ゴメソ」
「詐欺か!」
言いながら、僕は敵の斬撃をかわししつつ、剣を打ちはらい、敵を突き飛ばした。
「僕は何のために戦っているんだ!!」
「おい新入り!」
僕を呼ぶハスキートーン。僕の所属している船の船長だ。
「クキとか言ったか、死にたくなければよそ見をするな! 自分の相手にだけ集中しろ。生き残れよ」
船上が戦場と化し、なおかつ船は炎上し、荒城のごとく煙も立ち昇っていた。
何回も死にたくない。僕は必死に死線をくぐり、敵を退け、そして、生き残った。
気づいたら、僕は海賊の家に生まれていた。
物心着くまで意識はなかったが、2歳、3歳と歳を重ねるたびに、意識も記憶もハッキリしてきた。父はリューリク、母はルーシと言った。はじめ、彼らの言葉は分からなかったため、僕は言葉の発達が遅いと判断されたが、次第に彼らの言葉を覚え、普通に話せるようになった。海賊として、父リューリクはある船団に所属し、戦利品を持ち帰る。その戦利品はとりわけ書物が多かった。海賊の中でもリューリクは書物が好きなようで、海賊には珍しく文字の読み書きができた。そのおかげで、僕はこの世界について知る機会を得た。
どうやら、海賊たちは定住地を求め、内陸部の民族と抗争するタイプと、定住地を中心に貿易船の護衛や自ら貿易するタイプ、海賊船や貿易船を襲うタイプとそれぞれあるらしい。内陸部は豊かな土地もあるが、作物が育ちにくい環境も多いため土地の奪い合いをしているらしい。神ゼウスが言ったように中世ヨーロッパを彷彿とさせる世界のようだ。決定的な違いがあるとすればこの世界には魔法が存在するということだ。これについてはまだお目にかかっていないから、実在するかはわからない。しかし、神ゼウス。何故海賊の家なのか。何故こんなに僕は戦っているのか。説明してくれ。僕はこんなつもりじゃなかった!
「勝った後の酒は美味い!」
そう言ったのは船員の仲間であった。
僕らは他の海賊勢力と縄張り争いをしていた。思考は途切れ、目の前の麦酒を飲む。この辺りでは名産の酒らしい。戦利品にあったようだ。
「いやぁ〜、けっこうな数の船団だったが、敵ではなかったな。これもイエルマーク船長の手腕様様だ!」
イエルマークはあのハスキートーンの船長のことだ。なかなか腕の立つ人で、面倒見がいい。
「なに、ちょっと頭使っただけだ。大したことはしていない。さぁ、じゃんじゃん飲め!騒げ!」
とにもかくにも、こうやって敵に勝った夜はこんな感じだ。お酒を注がれては飲み、飲み干しては注がれ、これを延々と繰り返し、いつのまにか翌朝である。
「女はいないのか!」
「いません! 敵は女を乗せてませんでした!」
「ちくしょー! しけてやがるぜ! 女乗せてたら、俺たちのものだったのに!」
「最近少ないぞ!」
と、わめき散らす、粗暴な海賊ども。しかし、女の子不在に関しては同感である。
「海賊も面白そーじゃないか、案外商人やるよりも早く目的達成できんじゃないの?」
そんなことを気軽にゼウスは耳打ちするから思わず、
「あんたは黙ってろ! この役立たず!」
と、怒鳴ってしまったので、皆のグラスが止まった。
「おいどうした新入り。やけにいきり立つじゃねーか、立たせるのはあそこだけにしときな! ほら飲め飲め!」
ゼウスは彼らには見えなかった。故に彼には僕が独り言を言ったようにしか見えなかったのだ。
そうこうするうちに、月はその姿を惜しみながら消えていき、日は図々しくも昇り、存在感をアピールする。
「オールはきついよ」
社会人1年目を思い出す。先輩に夜中の間ずっと連れまわされた新人時代。
あの頃はお酒の飲み方も知らなかった。でも、歳を重ねるごとにそれもしんどくなっていって、いつの日か結婚して子供ができて、外出も減るものだと思っていた。
まさか、こんな世界に来るとは。僕はグラス片手に、バーのカウンターで、窓から刺す、照り始める太陽の光を恨めしげに見つめていたら。
がしゃん!
不意に大きな音が鳴った。何かをこかした音だ。空いた木箱が崩れた音のようだ。
音の正体を知るため、僕はカウンターを去り、寝落ちして、床に転がる仲間をよそに、外へ出た。
すると、誰かがこけてつまづいたのか、店の側の路地から木箱が不自然に転がっている。
僕は路地を覗くと、案の定、誰かがこけていた。
「痛った〜っ」
足を抱え、痛みをこらえる少年がいた。肩が小さい華奢な感じだ。でも、同じ歳くらいか、子供と呼ぶには落ち着きが見える。
「誰だ? この店今海賊が占拠してるから、巻き込まれると何されるかわからないよ。早くどっか行きな」
少年の身包みを剥がすと、言いそうな仲間たちだ。まるで海賊らしからぬことを僕は言っている。まぁ考えてもみてくれ、元日本人で、いくらここで育ったとしても、僕自身の考え方や感性に変化はないのだ。できれば、無闇な戦闘や武器を持たない相手を攻撃したくないし、ここは逃げてもらうに限る。
しかし、僕の希望とは裏腹に僕の言葉を聞いた少年は、
「おい、このタコ! 私はその海賊に用があって来たんだよ!」
少年はナイフを懐より取り出し、僕に突き出して来た。
「危な! 何すんだ!」
僕は突き出されたナイフを咄嗟に避け、少年との間合いを取った。
「避けるな! 仇が取れないだろ!」
少年がさらに突き出そうとするナイフを僕は手刀ではたき落した。
「いッ・・・」
少年は痛みに腕を押さえ、僕をにらみつけた。少年は僕を仇というが、僕は海賊として生きているが、今のところ誰も殺めていないのだ。敵を退け、身を守るのが精一杯だからだ。そして、抵抗を感じていたから。
「僕は誰も殺してはいないよ。もしかしたら僕の仲間たちがやったのかもしれないが、僕に傷一つつけられない程度で挑む相手じゃない。ここは退きなさい」
「スカしてんじゃねーよ!」
彼はさらに僕に向かってこよーとしたが、
「おおーい、どうした新入り〜」
仲間の声だ。誰かが起き出したらしい。
「いいえー! 何でもありません〜!」
僕は手振りで、少年に帰るよーに促した。
「チッ、絶対、父の仇は取るからな」
舌打ちをして、少年はすぐに踵を返してその場を立ち去った。
残された僕は何故か罪悪感を覚えていた。少年は父の仇と言っていた。自分の行いではないが、仲間たちがやったのかどうかもわからないが、僕たちの行いは、無関係な人を巻き込んでいるのかもしれない。経緯もわからないけれど、想像すると胸が締め付けられる気がした。
海賊は向いてない。
僕はそう思った。