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電脳世界で美少女はじめました  作者: 有栖 璃亜
第一部 マスター、これからお世話になります
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霧乃から見る学校での大輝

世界の表現の難易度が高くなってきたような気がする……。


「……それより、早く用事を教えてくれませんか?」

「あ、はい」


 目の前の管理者にどういう対応をしていいかわからなかったので黙っていると、向こうの方から聞いてきた。

 正直、今の状況ではこの方が楽だ。


「えっと……この学校に私の友達がいまして……」

「様子を見に来た、と?」

「は、はい」


 一応事情は説明したけど、やっぱり無理があったか?

 この状況を人間界で表すと、他校の友達が様子を見に来た、みたいな感じだ。

 普通なら答えは絶対にNO一択だが……。


「……別にいいですよ」

「ですよね、やっp……今、なんと言いましたか?」

「……だから、別にいいですよ」

「ほ、本当にいいんですか!?」


 絶対に無理だと思って、強行突破を試みようとも思っていたが、まさかの回答に驚いた。

 人のお願いを聞いてはそれに協力してくれるなんて……、さすが管理者、信じてた!


「……暴れたりしなければ大して問題は無いので……とは言っても、見た感じ暴れそうな人ではいと思いますが……」

「さっきから思いますけど、管理者さんの洞察力凄くないですか?」


 全くと言っていい程本題とは掛け離れたただの疑問を言う。


 だって、さっきから私が気付かないところで行動を見ていたり、常人では有り得ない洞察力。

 どうしても気になってしまうではないか!?


「管理者権限です」

「あ、そうですか」


 即答された。しかも、さっきまで話す前にあった間が全くなかった。

 

 もし言ってることが正しかったら、管理者権限で私の姿や考えを読んだってことか?

 信じ難いことなのだが、何故か管理者が言うと謎の説得力がある。


「……入口を開けるのでついてきてください。ここに来るのは初めてのようですから」

「……もう何もツッコミませんから」


 管理者が学校のコンピューターの前に立つと、どこからともなく半透明のキーボードを取り出した。

 しばらくキーボードを動かしていると、管理者の目の前の壁が丁度管理者と私が通れるくらいの大きさの穴が出現した。


「……ここから中に入れます」

「ありがとうございます」


 管理者が穴の中に入っていったので私は後をついて行く。穴を抜けるとそこには、マスターが通っている人間界の学校の内部が見えた。

 

「こ、これは……!」

「……どうですか?人間達がいる世界そのもののようでしょう?」


 学校を見て一番驚いたことは、教室で授業を受ける生徒の姿が見えることだ。


 本来なら、機械の画面越しから見ないと人間界の様子は確認できないが、この学校は言うのであれば、サイバネットワールドと人間界が融合したような空間だった。


「これも管理者さんがしたのですか?」

「……その通りです。昔は、サイバネットワールドと同じ空間が広がっていたのですが、私自身が人間が普段ここで何をしているのかが知りたくなったのです」

「だから、管理者権限を使って作り直した……ということですか?」

「……はい」


 自分の興味で一部の空間を人間界の様子を生で見れるように作りかえるとは……。


 それだけこの管理者が持っている権限は凄いということだ。

 そして、周りには管理者以外の人型のデータが廊下や教室を掃除したり、資料を持って移動していたりしている。

 そのデータ達には人間が見えているようだが、人間側からは気配だけではなく存在自体が見えていないようだ。


「……目的の生徒は誰ですか?」

「あ、えーと……中学二年生ってことはわかるのですが、生憎クラスを聞き忘れてしまいまして……」


 様子を見に行くなんて言ったが、学年だけを知っていてもクラスは聞きそびれてしまった。

 最初は校舎を手当り次第に探すつもりだったが、ここの管理者がいるのであれば場所を聞いた方が早い。


「……二年生ですか……丁度この校舎の二階と三階ですね」


 ——この校舎の二階と三階となると移動は楽だな。


 窓からは少し上から見下ろす感じで校庭が見えるので、恐らくこの階は二階で間違いないだろう。


 私は窓から見えるもう一つの校舎に付いている大きな時計で時間を確認する。


「今は……十時二十五分」


 そんなに時間をかけたつもりは無かったのだが、思ったより時間をかけてしまったようだ。


 それにしても、十時二十五分ならもう少しで二時限目が終了する時間のはずだ。


「それじゃあ、手当たり次第にクラスを見て来るので」

「……わかりました。……あの、よければ私もついて行っても……?」

「……?別にいいですけど」


 管理者が私についてきて何のメリットがあるかはわからないが、ついてきてもらえば、日頃のマスターの学校での様子がわかるかもしれない。


 そして、私は管理者と一緒にマスターを見つけるために、手当たり次第に二年生のクラスを見て周った。


「見つけた!」

「……そうですか、それはよk……ッ!」

「……あの、どうかしましたか?」


 探し回って二年三組の教室でマスターを発見すると、突然管理者がマスターを見るなり動揺していた。

 

 ——何故マスターを見て動揺を?


 ただ一人の生徒を見つけただけなのに、ここまでの動揺するなんて、一体何があったんだ?


「……貴方が探しているのは、あの藤原 大輝君で間違いないですか?」

「は、はい。それが何か?」

「……大変見苦しいかもしれませんが、我慢してくださいよ。暴れられると、ここのコンピューターシステムに障害を及ぼす可能性がありますので」

「は、はい……?」


 一体管理者が何を理由にそんなことを言うのかがわからない。

 それにしても、管理者が言う「見苦しい」とは一体何の事なのだろうか?


 キーンコーンカーンコーン


 十時四十分、学校に二時限目の授業の終わりと休み時間の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。

 そして、管理者が「見苦しい」と言っていた事が授業の終わりの号令と共に開始された。


「おい大輝、前の時間に渡した物あるだろ?」

「……それがどうしたの?」

「今すぐに被れ。でなきゃ、金曜日の事は許さねぇ」


 一人の男子生徒がそう言うと、マスターは制服のポケットから何かを取り出した。


 ——あれは……かつら?


 マスターは、かつらにしては毛量が少し多めの物を手に持っていた。


「一体、いつあんなものを……?」


 家を出る時には持っていなかった物をマスターは持っている。

 間違いなく、あのカツラはさっきの男子生徒の私物だろう。


 そして、マスターは持っていたかつらを被った。

 その姿は、誰が見ても男だとは思わない程、女の姿と一致していた。


「アッハッハッ!! やっぱり似合ってんじゃねえかよ!!」

「マジで女みてぇだ……クスクス」

「………」


 その姿を見て、クラスの生徒全員がマスターを見て笑っていた。

 しかも、誰も助ける気配がない。


 これは明らかに『悪意のある嫌(いじめ)がらせ』だ。


「これは……」

「……大輝君は、中学二年生になってからずっとあの様子です」

「どうに出来ないんですか!?」

「……向こうの世界がこの世界に干渉出来ないように、私達もあの世界に直接干渉することは出来ないのです。今私達が見ているのは、向こうにある監視カメラ等のデータを元に作られた映像のようなものですから」

「そんな……!」


 中学二年生になってから、つまり、私が来るまでの間にずっとあの状況にマスターは耐えてきたということだ。

 マスターの性格だ、きっとお婆さんには相談していないだろう。


「今まで、一人で耐えてきたというのですか?」


 担任の先生には相談は恐らくしていない。

 私が中学生の時の担任はいじめがあったとしても注意するだけだった。

 しかし、それは生徒の問題であったから。自分のこととなれば本気になる。

 人間なんて所詮はそんな生き物だ。


「……毎日のようなことなので、大輝君の精神は限界に近いはずです。貴方が大輝君の友達なら彼の助けになってあげてください」

「言われなくてもそのつもりです」


 約三ヶ月もの間、よく耐えたものだ。

 私が高校に行かなくなった理由はつまらなくなったの他に、生徒達がウザかったから。


 マスターは自分の面倒臭い気持ちだけで不登校になった私とは違って強い子だ。


 しかし、そんな強い精神力を持っていたとしてもいずれは崩壊していまう。

 それを私が支えなければならない。そして、支えるだけでは結局は同じことの繰り返しだ。


「どうにかしないと……」

「……何かをするおつもりでしたら、よく考えてから行動してください。もし、その行動が彼を苦しめる結果になってしまった場合、今度こそ彼の精神は……」

「わかってます」


 私の行動が吉と出るか凶と出るかはわからないが、この状況はどうにかしなければならない。


 たとえ、マスターが私を嫌いになってしまうことになったとしてもだ。

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