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電脳世界で美少女はじめました  作者: 有栖 璃亜
第一部 マスター、これからお世話になります
15/30

助けたい理由

今回は、前回より600字くらい少ないです。

 今私は、怜央さんと一緒にスクラップデータ処理所の周辺を散歩している。

 デネはどうするか? ちゃんと約束通り三十分後に吸い取る君から出してあげるつもりだ。まあ、出した時の態度によっては、また後日に同じことをするけどな。


「霧乃さんは、どうしてあの掃除機が必要だったんだ?」

「……今話さなきゃダメですか?」

「そりゃな。次に会えるかどうかもわからないし」


 確かに言われてみれば、私達はお互いに住んでいる場所を知らない。

 いや、玲央さんは私の住んでいる場所を誰かさんの情報で既に知っているか。


 だが、ここであったのも何かの縁だ。別に教えても大して問題はないだろう。


「わかった。でも、まずは何処か座ろ」

「そうだな」


 私達は座れそうな場所を探し始めた。そして、探し始めて間もなく、座ってくださいと言わんばかりに誰も座っていない長椅子があった。


「取り敢えず、あそこに座ろう」


 怜央さんはそう言って長椅子に近付いて行く。私も後に続いて長椅子に近付く。


「あ、先に座って待ってて」

「え? 何で?」

「飲み物があった方がお互い落ち着いて話せるだろ」

「話すのは私がメインなんですけど……」

「まーまー、細かい事は気にするな」


 そして、玲央さんは飲み物を買いに行った。


 ——この世界にも飲み物があるんだな。


 私はこの世界に来てから食べ物や飲み物を一切口にしていない。だから、この世界の飲み物がどんな味がするのかが楽しみだ。


「それにしても、この場所は……」


 遊具に砂場、一本の大きな木……間違いない、人間界にある公園だ。たが、人間の姿は見当たらず、見当たるのはサイバネットワールドの住民だけだ。

 何故ここに公園があるのかはわからないが、恐らくマスターが通っている学校のコンピューターの内部世界と同じ原理だろう。


「ほら、買ってきたぞ」

「あ、ありがとう」

「緑茶だけど飲めるよな?」

「心配は無用。私の嫌いな飲み物は青汁だけだから」

「そうか」


 この場所のことを考えている内に玲央さんが飲み物を買って帰ってきた。買ってきてもらった緑茶のペットボトルを見るが、人間界にあったものと全く同じ色のお茶だ。

 私はペットボトルを開け、中の液体を一口飲む。


「……味も同じ……」

「ん? どうした?」

「うんん、別に何も無い」


 緑茶の味は私が人間で飲んだものと全くとまではいかないが、ほぼ同じ味だった。そして、この緑茶からする香りも同じ。だが、お腹に入った感じはしなかったのでなんとも奇妙な感覚がした。

 お腹に入った感じがなかったのは、恐らくこの緑茶がデータでできたものだからだろう。


「それじゃあ話を聞かせてくれ」

「うん、わかった」


 そして、私はマスターのことについて話し始めた。



「なるほど、霧乃さんを住ませてくれてる人間が酷い目にあっていると」

「はい」

「人間の問題なんて俺達には到底解決できないことだ。なのに、何故助けようとする?」

「……私はただ、住むことに何の反対もせず、快く招き入れてくれた大輝さんに恩を返したいだけ。それに……」

「それに……何だ?」

「私にとって、初めての友達を放っておくなんて真似は私には出来ない」

「…………」


 「人助けに理由はいる?」と言う言葉があるが、私は何事にも理由は付き物だと思う。自分では人助けに理由なんてないと思っていても、その奥底では誰かを助けたいというちゃんとした理由がある。


 そして、今の私もそうだ。マスターを助けたいのは、マスターに恩返しがしたいという理由がある。

 自分の大切な友達を助けたいという思いがある。

 だから、私はマスターを救わなければならない。そう自分で決意したんだ……!


「そして、あの掃除機が大輝さんを救う鍵になるかもしれない」

「にしては、少々扱いが雑じゃなかったか?」

「うっ……」


 扱いが雑だったのはデネが中に入っていたからだ。

 だが今考えれば、あそこまでやることはなかったんじゃないかと思えてくる。

 もっと冷静に物事を判断しなくては……。


「ま、その気持ちは本物みたいだしな。協力させてもらおう!」

「それは有り難いんだけど、何かさっきと雰囲気が違わない?」

「こっちが素なんだ」

「あ、そう」


 さっきまでの玲央さんの雰囲気は、落ち着いた青年って感じだった。だが、今の玲央さんの雰囲気は明るい青年のような感じだ。

 一人称も「僕」から「俺」になっている。


「それより、協力するというのは本当?」

「ああ。男に二言はない」

「あ、ありがとう!!」

「おいおい、頭を上げてくれ。俺が勝手にやってることなんだからさ」


 嗚呼、世の中全てがこういう性格の人だったら今頃世界はもっと成長しているのに……。ま、そんなに世の中は甘くないってことだ。

 そんなことより、協力してくれるのならとても有難い。


「あ、そろそろ三十分」

「確か、あの掃除機取りに行くんだったか?」

「うん、あれがないと私の目的が達成出来ないしね」


 そして、私は残った緑茶を一気に飲み干して、空になったペットボトルを専用のゴミ箱へ入れる。


「それじゃあ、行こ」

「そうだな」


 そう言って、私達はスクラップデータ処理所に吸い取る君を取りに向かった。


 ふと、歩きながら横を歩いている玲央さんについて考える。

 最初は「僕」と言う一人称で話し掛けてきて、慣れてきたら「俺」という一人称に変わって性格も変わる。私はこういう人を以前に見たことがある気がする。

 それに、何故か妙な親近感が湧いてくる。


「……何でだろう」

「何か言ったか?」

「うんん、何も」


 私は今日一番の疑問である、玲央さんの正体についてをスクラップデータ処理所に着くまで考えていた。

 だが、何もわからなかった。


「一体……貴方は誰なの……?」


 私は小さな声で呟いたが、その呟きは周囲の物音に紛れて誰にも聞こえることはなかった。


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