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電脳世界で美少女はじめました  作者: 有栖 璃亜
第一部 マスター、これからお世話になります
13/30

大輝のお婆さんと霧乃

シンプル過ぎるサブタイトルです。

正直、自分でももっとマシなサブタイトルに出来たと思う。

 七月二十一日金曜日午前七時。小鳥のさえずりが聞こえ……てはいなく、眩い太陽光が差し込んで来た……というわけでもない。

 その代わりに、外ではザーという音がし、空一面には雨雲で埋め尽くされていて、とても気持ちのいい朝とは言えなかった。


 それが今日、七月十八日火曜日だ。


「ふぁ〜、昨日は疲れてたからいい感じに寝れたけど、今日の朝の天気が土砂降りの雨じゃあ良い気分になれないな〜」


 伸びをして寝ていたことで収縮していた身体をいつもの起きている状態に戻す。


 ん? 何故睡眠をとる必要が無い私が寝ていたか?

 答えは簡単。疲れを取る為だ。


 幾ら体がデータ出て来ていても人間と同じで疲労が溜まる。それを解消するのは人間と同じ睡眠だ。

 まぁ、マスターがあの時に寝た時点では睡眠は別に必要なかったのだが、その後すぐに帰ってきたマスターのお婆さんとの会話で残りの体力を全て持っていかれた。


 何故そこまで体力を持っていかれたのかを知る為には、昨日に時間を(さかのぼ)って見ればわかる……。



 そして昨日。マスターが疲れを取る為に寝てすぐ、扉の方でガチャっと音が聞こえた。

 きっと、マスターのおばあさんが帰ってきたのだろう。


「大ちゃん遅くなってごめんね〜。思ったよりも買い物が長引いちゃって」


 玄関付近からはそんな声が聞こえる。にしても、ここまで聞こえるってマスターのお婆さんの声大きいな。


 そんなことよりも、私にはマスターの現状を心配させない程度に説明するというやるべき事がある。

 覚悟を決めた後にマスターのお婆さんの所へと向かう。

 一階にあるインターネットに繋いであるものと言えば……パソコンとテレビがあった筈。


 私はマスターのスマホから出て、すぐ近くにある藤原家のパソコンに入る。

 何故テレビに入らなかったのかは、自分で言うのもあれだが、急に美少女が大画面に現れたら誰でも驚くと思ったからだ。

 しかも、相手はマスターのお婆さん。下手すると、驚きで心臓が止まってしまうかもしれない。


 ……心配し過ぎかな?


 私がパソコンに入ると部屋の電気をつける感覚で電源を入れる。


「あれ? 私パソコンの電源切ってなかったかしら」


 マスターのお婆さんは突然パソコンの電源が点いたことを消し忘れたと勘違いしているようだ。


 いや、流石に最後に点けたのが一週間前のパソコンの電源を切り忘れた事に気付かないわけないだろ。


「突然すみません。マs……大輝さんのお婆様でしょうか?」


 危ない、今ここでマスターのことをマスターと呼んでいることがマスターのお婆さんにバレれば色んな意味でヤバい。


 ……一体私は何を言っているんだ?


 私はさっき自分で思ったことがマスター連呼をし過ぎたせいで理解出来ないでいた。


 それより、マスターのお婆さんは私の突然の登場によって心臓が……。


「あら、大ちゃんのお友達? こんな夜遅くにいらっしゃい」

「……あれ?」


 何か……思ったのと真逆の反応なんですけど……。


 もっと「うわぁー!」とか言いそうだったのに、目の前にいるマスターのお婆さんの表情は、まるで、家に息子の友達が来た事を歓迎するような表情だった。

 心配していた心臓の方は全く異常なし。


 マスターのお婆さんが少々呆けていたお陰かな?


「どうしたの? 何かおばちゃんおかしなこと言ったかしら?」

「いえ、何も」


 心配して損した。


「それより大ちゃんの彼女さん」


 おいおいおい、お婆さんの頭の中でマスターと私の関係が友達から一気に彼氏彼女にまで進化してるぞ?

 てか、絶対つい数秒前に自分が言ったことを忘れてるよね?


 それに、マスターと私はまだそんな関係……って、私は一体何を考えているんだ!?


「さっきから大ちゃんの姿が見えないけど、何処にいるか知らない?」

「え、あ、はい。えっと、大輝さんなら今部屋で眠っています」


 ついに本題に入った。少々混乱していたが、すぐにいつもの私へと戻る。


 正直に話せば、お婆さんが心配するし、その時のマスターの態度によっては喧嘩も起きてしまう。

 さて、どう説明すべきか……。


「あら、学校での疲れが出たのかしら?」

「あの……実は、結構怪我をしてしまして……」

「え!? だ、大丈夫なの!?」

「は、はい。怪我は大したことじゃないのですが、最低でも一日は休んだ方がいいと思います」

「そ、そうね!! それじゃあ明日は休ませることにするよ」

「そうして下さい」


 という流れで明日、マスターが欠席することを許可してもらった。

 マスターのお婆さんがかなりの心配性で助かった。


「それで、どう怪我したの?」

「え、あ、それは……」


 ——しまった。マスターの欠席についてどう話すかしか考えていなかった。


 まさか、マスターの怪我の様子ではなくて、マスターがどう怪我してきたのかを聞いて来るとは思わなかった。


 と、とりあえず、即行で私が目撃した前提で考えなければ……!


「えっと……私が見た限りでは、学校の階段で足を踏み外して七段ぐらい全身を打ちながら転げ落ちて、立ち上がった所に、急いでいた誰かが大輝さんにぶつかって、腕と足を擦りながら倒れ込んだ後に、運悪く野球部の人が打ったボールがピンポイントで大輝さんがいる場所の窓に当たって窓割れて、ボールは立とうとしていた大輝さんの顔に当たりました。その後、バランスを崩した大輝さんがガラスの破片が落ちている所へと倒れて大量の切り傷が出来ました」

「へ〜」


 と、表面上では冷静に話しているように見えるが、内心は……。


(ダメだぁぁ!! 流石のお婆さんでもこればかりは間違いなく嘘って気付くに決まってる!!)


 表面上とは真逆で、明らかにバレバレの嘘を言ったことにかつて無い程の焦りを感じている。


 実を言うと、私は昔から嘘をつくのが苦手だった。

 嘘をつく前に感じる緊張感が思考を狂わせ、言おうとした言葉を出鱈目に繋げて言ってしまうのだ。


「大ちゃん今日は厄日だったのかしら?」

(信じたぁぁぁ!?)


 まさか信じるとは思わなかった。

 今まで人を騙そうかと思ってどんな嘘をついてもそれが嘘だとすぐに暴かれたのに……。


「あ、そう言えば今日の星占いで大ちゃんの射手座が最下位だったような……。それに内容が『今日一日死なないように頑張りましょう』て書いていた筈」

(いや、何そのざっくりとした星占い!?)


 その星占いの占い、最下位なんだから適当に言っとけばいい感が半端ないんですけど……。

 一体どんな星占いなのか自分でも見てみたい。


「これならラッキーアイテムの女物の下着を渡しておけば良かったのかしら?」

「お、お婆様。流石にそれは大輝さんに迷惑になりますよ」


 ラッキーアイテムが下着ってどんな星占いだよ。

 マスターが女物の下着を持っていたら確実に変態に……いや、マスターならそんなことも無い……かな?


 それに、星占いなんて所詮は占いで本当に当たるかどうかわからないのに、今のマスターを見れば占いって凄いと思えてくる。


「まぁ無事なら良かったわ。それより、えっと……」

「あ、私は大神霧乃と申します」

「あら、そうなのね。それじゃあ、大ちゃんが起きてくるまで二人でお話しましょうか」

「わかりました」


 マスターが起きるまで正直言ってすることがなかったのでお婆さんの提案に賛成した。

 え? 吸い取る君はどうするって? 面倒だから明日に探しに行くつもりですが?


 それから、マスターのお婆さんと話をしていたが、お婆さんが持ち込んでくる話題の殆どがマスターと私の関係についてだった。

 私は何度も友達だと説明しているのに、お婆さんは説明した内容をほんの十分程で忘れてしまい、また同じことを聞いてくる。

 それを説明しては忘れ、また同じ説明をするという無限ループに私は入ってしまっていた。


 そして、この無限ループは、眠っていたマスターが夜ご飯のために起きて来るまで続いた。


 その後、マスターとマスターのお婆さんが夜ご飯を食べている内に少し休憩しようと思っていたのにぐっすりと眠ってしまった。



 そして冒頭に戻る。


「マスターのお婆さんが思った以上に物忘れが激しいとは予想外だった……」


 人は歳を重ねる度に記憶能力が低下していくと言うが、マスターのお婆さんはその中でもかなり重度の方だろう。


「さてと、準備が出来たら探しに行きますか!」


 横でまだマスターが寝ているので小声で言う。

 マスターの欠席については、お婆さんが一階で学校に連絡していたのを見たので問題ないだろう。


 何故、マスターと私の関係についての話はすぐに忘れるのにマスター個人の話なら完璧に覚えているのだろうか……?


「それじゃあ、出発!」


 そして、私はマスターのスマホから出てサイバネットワールドに出た。

 さて、まずは何処から——。


「あの、この掃除機って貴方のですよね?」

「………」


 出た途端に何だか聞き覚えのある声が聞こえた。つい昨日に聞いたような男性の声だった。


 ゆっくり声が聞こえた方を向くと、そこには誰もが二度見する程顔が整った訳でもないフツメンの男性が、昨日私が何処かに置いてきた吸い取る君の横に立っていた。

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