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フォトグラフ  作者: 岸田龍庵
1/5

その1

20年前くらいに書いたものです。


今では、写真はスマホで撮り、データで保存、インスタでお披露目というのが当たり前の写真


手に取れる紙焼きだからこそ、ありそうなシチュエーションのお話にしてみました。



 手渡された写真をきちんと確認して持ってこなかったのが良くなかった。



 工事の経過を写したものと思ったのだが、写真屋から手渡されたものは見たことのないカップルの何気ない様子を収めた写真だった。

 ツーショットのもの、男一人だけのもの、女しか写っていないもの、そんな写真たち。

 確認してこなかった自分も自分だが写真屋も写真屋だ。もう一度写真屋に足を運ばなくてはならない。面倒な話だった。



 浅井は夕方五時に職人たちが帰ると写真屋に足を運んだ。

 写真屋も多分顔なじみの浅井に対して慣れた対応をしてしまったのだろう。そうでなくてはこんな間違いはめったにない。

何せ週に二、三回は現像(げんぞう)を頼んでいる。それだけ工事現場は日々替わり、記録しなくてはならない。

 写真屋のバイトの顔なじみの店員は浅井に謝った。

 浅井は自分の手元に写真さえ戻ってくれば構わないと思っていたので別に気にはしなかった。確認しない自分も悪いのだ。

 ところが、問題はその後にあった。



「いりませんよ、こんな写真」浅井は断った。

「でも、お客さんのそういう希望なので」写真屋のバイトの子は浅井に最初に渡した写真も持って帰るように言った。

「もらっても仕方がない」

 ことの顛末(てんまつ)は浅井には考えられないものだった。

 浅井が最初に間違った写真を受け取った後、もとの持ち主が写真を取りに来たが、浅井はすでにそれを持ち帰ってしまっていた。

 すると元の持ち主は「そのまま、間違って写真を持っていった人に受け取ってもらいたい」とだけ言葉を残して店を後にした。

 だから店のバイトの子はそのお客の要望にしたがって、間違って写真を持っていった浅井に写真を渡した。



 浅井は本来自分が必要な写真以外に、誰ともわからないカップルの写真まで持たされることになった。

 元の写真の持ち主がどう処分しても構わないということなので、下手にもめるものと思い、結局、浅井の手元には最初に受け取った写真までもが戻ってきた。

 浅井はおとなしく、写真を、カップルの写真を持ち帰った。

 浅井は工事事務所に戻り写真を整理した。




 もう辺りはすっかり暗くなっていた。仕事が終わり、帰り支度をしながら浅井は間違って持たされた写真を一枚一枚見た。

 楽しそうな恋人同士の写真。昼も夜も夕方も寄り添ってベンチにかける一組の男女の写真。恐らく誰かに撮ってもらったであろう写真。



 どうしてこの写真を捨てる必要があったのだろう。多分、別れた思い出を捨てる必要があったのだろうか。浅井はそんなことを思いながら一枚一枚写真を見た。

 あまり若くはない男と女。男のほうが大分年を取っている。女も男も地味な印象がする。

 不倫だろうか。どれも場所は同じ公園だった。どこかで見たことのある公園だった。

 その公園が今、浅井自身が改修工事を手がけている公園だとわかるまでさほど時間はかからなかった。



 都会の片隅の公園で、短い時間を()っての恋。よくある話だろう。



 写真の日付はもう四年も前のものだった。

 もうこの二人は別れたのだろうか。それともまだこの公園で二人は逢っているのだろうか。

 それはなかった。今、この公園は立入り禁止だ。少なくとも工事が終わる半年先までは。

 浅井は写真を受取の欄に書かれている住所に送ることにした。

 内藤美砂という女性の所へ。理由はどうあれ他人の写真を持っているなどあまり気分のいいものではなかった。

 元の持ち主に写真が戻ればそれで話は終わるはずだった。

読了ありがとうございました。

まだ続きます

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