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独身貴族はハーレムに屈しない  作者: シバトヨ
独身貴族は異世界に屈しない
8/79

8話

「な、何を言ってるのか分かってるのか!?」

 予想できていたとはいえ、実際に耳にした俺は、酷く動揺した。というか、現在進行形だ。「している」と言うのが正しい。

「あぁん? セックスだろ? むしろ、そっちこそ。その気だったんじゃねぇのかよ?」

「そんなわけあるかっ!?」

 混乱しているためか、逆らうような口調で不良少女へと怒鳴ってしまう。

 その結果。

「……分かった。おめぇの言いてぇ事は、よく分かった」

 そろそろと、少女はゆっくり立ち上がる。その動作からは、相手を一歩も動かさせない、獰猛(どうもう)さが伺える。俺自身も、指一つ動かせず、冷や汗を流したままになる。

「無理矢理やられてぇってことだろ?」

 ちげぇよ。

 と、怒鳴りたかったが、口からは微かに漏れでる呼吸の音だけ。天敵に狙われた獲物のように、相手から目を話すことさえ許されない状況だ。軽々しい突っ込みさえ許されない。

 女性は一歩、また一歩と、こちらに近づいてくる。

「ジュルリ」

 溢れ出た涎を手の甲で拭い、さらに近づいてくる。

 「犯される」のではなく、「捕食される」と言うのが正しいかもしれない。


 俺はいたって普通の男だ。性欲もそれなりにある。

 ある意味。この状況は、ドウテイを捨てられるチャンスでもある。


 だが…………俺の心は、グッと締め付けられる。


 無理矢理犯されるだけの価値が、俺自身にあるんだろうか。


 ふと、頭の隅から沸き出てくる疑問。

 だが、その疑問に応える時間は与えられなかった。


「てぇぇぇいぃぃぃ!!!」


 天井から突き刺さるように、ピンク色の線が走る。

「あなたはアホですかっ!? (はじめ)さんっ!?」

 怒鳴られて、始めて気付く。

 そのピンクの線は、彼女ーーモニカ・ヴァンだと。

「……おいおい。割り込みは無しだろ」

 不良少女は、苛立ちを隠すこともなく、むしろ上から割り込んできたモニカへとぶつける。

 が、

「…………って、『ピンク・ローズ』じゃねぇかよ!? どうしてこんなとこに居んだよっ!!?」

「この人、」

 と、俺を指差して、

「を、尾行してたの」

「「はぁ?」」

 俺と不良少女の声がだぶる。俺のは、尾行されていたことに対してだが、彼女のはなぜ俺を尾行していたのか。と言ったところだろうか。

「……お前。唾をつけるなら、候補から選べよ。そいつはどう見ても天然物だろ?」

 候補だとか、天然物と言うのが何なのかは知らないが……男のことを指しているのは、何となく理解できた。

「そ、それなら! カルちゃんだって!! 初対面の人を襲うような真似しちゃダメだよっ!!!」

 カル……ちゃん…………?

「……お前。その名前で呼ぶなって……」

 (うつむ)きながら、身体全身をピクピクと振るわせるカルちゃんこと、不良少女。怒っていると、鈍感な俺でも分かるほどだ。

 しかし、

「えぇ~カルマだから、カルちゃんでしょ?」

 モニカは、気付いていない……わけないよな? 本当は、挑発行為なんだよな??

 実は、モニカは天然なのでは? という考えがよぎるが、

「もう許さねぇ!」

 三メートルほどの距離を瞬時に詰めて、モニカに拳を当てに行くカルマ。

「何をっ!」

 と、言いながら、モニカは右手の平で拳を包み、上空へとカルマを持ち上げる。カルマの身体はモニカに接触した拳のみで、そのモニカを土台に見立て倒立している。

 やがて、モニカの後ろにいた俺を飛び越えて、更に五メートルほど離れた位置に着地する。

「許さないって言うの!?」

ーーピキッ!!

 そんな効果音が聴こえたのと同時に、カルマは床を強く蹴り俺に突っ込んでくる。

「退いてっ!」

 と、モニカの声が耳に届いたのと同じくして、俺は急激に背中から吹き飛ばされる。

 買ったばかりの肩掛け鞄は、(ひも)が切れたのではという音を響かせながらも、俺の身体から離れずにいた。

「ぐっ!?」

 それでも、背中から着地させられたため、息が詰まる。マットが無ければ悶絶していたであろう。


「せいやっ!」

 掛け声と共に繰り出される拳や蹴り。

 日本ではあり得ない打撃の応酬に、ここが異世界なのだと実感させられる。

「このっ!」

 カルマは飛び上がり、モニカの背後へと移動する。

 しかしモニカはモニカで、着地点を予測し、その予測点に拳や蹴りで当てに行く。

 これはカルマも予想していたのか。上空で身体を伸ばし、モニカの予想した滞空時間をずらしにかかる。

 そして、カルマの着地よりも早くに、モニカの拳が到達してしまう。

 その伸びきった腕を左手で掴みーー

「貰ったっ!」

 骨を砕くように、右拳を先頭に身体ごと落下させる。

「甘いよっ!」

 だが、モニカは焦ることなく、カルマに続くように飛び上がる。カルマが握っていた箇所が支点となり、モニカの身体がカルマに迫る。

「ちっ!」

 手首の稼働域から離れたモニカの手首。カルマは指の合間からモニカの手首を逃がし、自身の頭を守るように覆い、着地と同時に転がる。

 カルマが転がっていなければ、モニカの(かかと)が頭上に直撃していただろう。


「………………」

 なんて攻防なんだ。語彙(ごい)力の(とぼ)しい俺は、在り来たりで、簡単な感想を思い抱くことしか出来ない。

 モニカはトップランカーだと自称していたが……そのトップと渡り合っているカルマと呼ばれた少女も、相当な腕前なんだ。少なくとも、腕力でさえ劣る俺が太刀打ちできる相手ではない。

 床に、壁に、穴を空け始めた壮絶な闘いを、俺は傍観しているしかない。

「相変わらず、凄いねぇ~」

「っ!」

 突然。背後から吐息を漏らすような女性の声。

 振り返れば、俺の隣で体育座りをしている女の子がいた。

「いやぁ~。ここが廃棄されてる場所で良かったよねぇ~」

「……君は?」

 警戒しなければいけない相手かどうか。それを決めるためにも、俺は女の子へと声をかけた。

「わたし? わたしはーー」

 と、女の子はニタァと、まとわり付くような笑顔で、


「お兄さんの敵だよぉ~」


 と、声にした。

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