5話
アタシは女王。
一億の民は、アタシの宣言をどう捉えるだろうか。
「貴様らの命をっ! 生かすもっ! 殺すもっ! 余の裁量にっ! かかっていると知れっ!!」
アタシ自身が聴いても、とんでもなくふざけた宣言だ。言う分には、宮殿での扱いによるイライラを発散できるけど。
宣言の内容はともかく。アタシは女王になった。
そして、アタシの発言は、この国の法則となる。アタシが赤と言えば、例え無色透明であろうとも、赤に染まるのだ。
「いかがですかな? 財務担当殿??」
「ふーむ……民からむしり採れば、全然余裕であるなっ!」
「「「ガハハハァ!!」」」
なんとも不愉快な会話である。
なんとも不愉快な笑い声である。
アタシが女王になってからの、初の議会。であるが……この光景は、宮殿に入れられてからも、幾度と眺めさせられてきた。
その度に、苛立ちを覚え、自室で撒き散らしてきた。
そんなアタシの気も知らず、一人の男が羊皮紙を持ってくる。
「女王陛下。こちらに印を」
差し出された羊皮紙には、端的に言えば、民の納税を増やすという内容が書かれている。
この薄汚い奴等に、民の金が蝕まれるのか。
と。先程の――宣言をする前のアタシなら、思っていただろう。
アタシは女王。アタシが法。
「うむ。その前に、」
男の羊皮紙を受け取ったアタシは、不愉快な者達を指差し、
「その者等の首を跳ねよ」
淡々と紡いだ言葉に、議会は沈黙する。
「じょ、女王……陛下…………?」
楽しく不愉快に笑っていた大臣共は、己が耳を疑う。
そして即座に、村の女王と揶揄してきた者共は、アタシの発言に疑いを持ち始める。
「今、なんと?」
「次は無いと思え?」
脅しである。しかし、それだけの言葉で、大臣を含めた、その場にいる者共は、アタシの言葉を一字一句逃すことなく聴くことになるだろう。
「その不愉快な大臣共の、首を跳ねよ」
アタシは丁寧に不満も添えて、大臣達を指差してやる。
「ふ、ふざけるでないぞっ!? 女王陛下っ!!?」
「我らが何をしたというのだっ!?」
「罪状はっ!? 答えて見せよっ!!」
死を宣告された大臣共は、一斉に沈黙を破り裂く。
「余は女王ぞ? それ以外に理由が必要であるか?」
もちろん。彼らは、
「そんな理由で殺されてたまるかっ!!?」
と、激怒を上塗りしていく。
なんとも不愉快極まりない。
己の罪を知らず、その上アタシを不愉快にし、一億の民を食い物にする。
「そこの衛兵。剣を抜け。今すぐ、その者共の首を跳ねよ。さもなくば、貴様の首を跳ねようぞ」
と、我は腰に下げている飾りだらけの剣を解き放つ。
歴代の国王、女王は、この剣を一度も抜いたことが無いのだろう。
サビも曇りもない。腰に下げるだけの重石。ガラクタ以外の何物でもない。
それが、アタシの手によって武器に生まれ変わるのだ。ここは衛兵でなく、アタシが直々に首を跳ねるというのも一興と言えようか。
「じょ、冗談じゃないっ!?」
「え、衛兵っ! 剣を抜いてみろっ!? さもなくば、貴様は金無しになるぞっ!!?」
「他の者もっ! 何か言えぬのかっ!?」
みっともない足掻き。仕方がない。
「衛兵。そこで見て居れ」
アタシは手に持った剣を両手で構え、
「や、止めろっ!?」
首をめがけて、振り抜いた。




