6話
朝食を食べ終えた俺とモニカは、今後の話に移っていく。と言っても、俺の中では既に決まっているのだが。
問題は、彼女がドンドン話を進めていく為に、切り出すタイミングがない点だろう。
「じゃあ、服を買わないといけないですし、街に行かないとですね?」
話を切り出すならここだろう。
「いや、町へは俺一人で大丈夫だ」
「ダメです」
「………………」
俺の予想では、「へ? なに言ってんですか??」といった反応が返ってくると思っていたのだが……
「まさか、即座に却下されるとはな」
半ば感心するように俺が述べれば、
「一さんの行動パターンなら、既にお見通しですからね! それよりも、」
と、プクーっと頬を膨らませ始めるモニカ。膨らみきった頬は、風船を割ったよう瞬時に萎み、言葉で捲し立ててくる。
「あれだけ、男性の一人歩きが危険だと言ったのに! まだ足りないんですか!? もう一度説明しますか!?」
「話ならもう十分だ」
来年は三十路だというのに、少女から再び説教を頂くのは、精神的に堪える。特殊な性癖ならば、それはご褒美となるのだろうが……俺はいたってノーマルなんだ。出来る限り、説教を受けたくはない。
「……そうですね。既に言葉ではダメな領域のようですね」
「………………」
次は身体で解らせてやる。と、言いたげな目付きでこっちを見てくる。
「ヒィーヒィー言わせてあげますからねっ!」
と。
結局、モニカのいう通り、二人一緒に町に行くことに。
喫茶店から移動した先は、緑が整えられた街だった。規則正しく街路樹が並んでいるが、車は一切走っていない。
変わりに、ときどき馬や馬車が人を避けるように、あるいは人が道を譲りながら、通りすぎていくくらいなものだ。
「では一さん」
「……なんだ?」
これからの様子が楽しみでしょうがない。と、歩きながら呟いていた彼女は、
「今からココに書いてある物を、買い揃えてきてください。全部、この通りの商店で買えますから」
と、一枚のメモと数枚の紙幣を渡してくる。
紙幣は日本のものと同じようなサイズ、色合いだが、描かれている人や草木が異なっている。幸い、金額と思われる数字の書かれている位置は同じだ。
金額にして二万五千。通貨の単位は分からないが、学生がポーンと渡せる金額では無いはずだ。
「お釣りは返してくださいね?」
「もちろん、そのつもりだ」
むしろ、払わせてしまうことに罪悪感が生まれる。財布の中身が使い物になるのであれば、彼女の世話になることはなかったと言えるだろう。
仕方がない。このお使いを無事に終えたら、彼女とさようならだな。
「……待ち合わせはどうする?」
待ち合わせる気など更々無いのに、そんなことを口にする。
「そうですね。……では、一時間後にあの時計台前に集合ということで」
それだけ言い残し、彼女はフンフンと鼻唄を刻みながらベンチへと歩いていった。
さて。
「異世界でのはじめてのおつかいか……」
自分一人で何かを買ったのは、いつだっただろうか。
頭の中だけを幼少の頃までタイムスリップさせながら、俺は近くの雑貨屋へと足を運んだ。