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独身貴族はハーレムに屈しない  作者: シバトヨ
独身貴族は病室に屈しない
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5話

 学園長がモニカの病室から出ていく。

 俺も追随(ついずい)して、自分に割り当てられた病室に戻ろうとするが、

「あ、(はじめ)お兄さんはぁ~、ここに残ってねぇ~?」

 と、包帯でぐるぐる巻きにされた脚を止められてしまう。

「まだ何かあるのか?」

 本来の目的ーーモニカの様子を確認することと、今後の話をするという目的は達成できた俺としては、早くベッドに戻りたいのだが。

「エマちゃん?」

 逆ドッキリを仕掛けたモニカも、エマが俺を呼び止めた理由を知らないらしい。

 となれば、エマの独断専行ということか……。

 そんな意味合いを込めて、小学生のようなエマを睨む。

「そんなに見つめられちゃうとぉ~、ほっぺたがぁ~、赤く染まっちゃうよぉ~」

 「見つめる」なんて、良いものじゃないと思うが?

「うぉっほん!」

 エマはわざとらしい咳払いをしては、

「二人に重大な、発表がありまぁ~す!」

 彼女には珍しく、語尾をプッツリと区切るような話し方で、

「じゃあ~ん! 東の国! トウゲンキョウのリゾートチケットでぇ~す!!」

 と、二枚のチケットを高々と見せつけてくる。高々と言ったが、彼女と俺の身長差では、突っ立っていた俺の、ちょうど顎の辺りにチケットが来る感じだった。

 そのチケットを一枚受け取り、内容を黙読していく。

「こ、これ……! エマちゃん! これ! どうしたのっ!?」

 モニカよ。君の方がどうしたというんだ?

 まるで宝くじに当たったかのような驚きかたを見せてくれるんだが……

「まぁまぁ~、出所は置いといてさぁ~。二人の新婚旅行だと思ってぇ~、ふふふふ」

 と、手で口を覆いながら、にやつくエマ。モニカから聞いたが……本当に悪戯好きなんだな。

 ただ、

「新婚旅行なら、俺は行く気がないぞ?」

「「え? ……えぇ!?」」

 と、俺の発言に驚く二人。そんな、おかしな事は行っていないはずだが?

「と、と、トウゲンキョウのリゾートチケットですよ!? しかも! 二泊もっ!! これに行かないとかっ!! 一さんは、頭が腐ってるんですかっ!?」

 酷い言われようだ。

「そんなに凄いチケットなら、女子二人で行ってくるがいい」

 と、エマに持っていたチケットを手渡そうとする。

 が、

「ねぇ? 一お兄さん??」

「なんだ?」

「お兄さんはぁ~、東の国に行く必要がぁ~、あるんだよねぇ~?」

 業火魔王(サンライズ)を完全に封印する条件の一つ。月読(つくよみ)巫女の子孫に会うことを言っているんだろう。

「……そうだな」

「なぁ~らぁ~、このチケットをぉ~、使ってぇ~、行ってくればぁ~?」

「そうですよっ! それしかないですよっ!!」

 と、二人が全力で説得しに来るが……

「いや、俺は東の国に用事があるだけで、それは手続きを行えば、確実に……」

 と、説得を拒んでいた俺は、徐々に二人の視線が冷えていくのを感じて、

「分かった。俺の敗けだ」

「「ふふふっ!」」

 敗北を認めると、二人は顔を会わせて笑いあう。本当。仲の良いコンビだな。

「となれば、水着を買いに行かないとですね!」

「今年のはぁ~、気合いがぁ~、入るねぇ~!」

「エマの言い方だと、逆に気が抜けそうだけどな」

「なんだとぉ~!?」


 彼女の病室には、三人の笑い声が響く。もちろん。三人の中には、俺も含まれている。


 このやり取りは、生涯。忘れることのない、掛け替えのない一枚の景色として、俺の心に刻まれる事だろう。

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