5話
「モニカっ!」
くそっ! 最後まで言い切れればっ!!
途中で業火魔王に邪魔をされたため、モニカに油断を与えてしまったっ!!!
いや、
「俺がもっと早く気が付けば……!!」
相手は、俺の身体とはいえ、世界を壊すほどの力を持った魔王だ。かすり傷でも致命傷になるかもしれん。
「くそっ!!」
反省は後でする! 今は球体の破壊を…………
「ここは……どこだ?」
辺りを見渡せば、灰色に覆われた大地。残り火があちこちで揺らいでいる。記憶の縁に追いやられたのであれば、黄金の稲穂で視界を埋め尽くされるはずだ。
だが、そんな輝かしい景色とは真逆の世界。まるで、村を焼かれたような景色である。
「………………」
どこかで、この景色を見た覚えはないか?
日本ではない。それは確かだ。
俺は、異世界で過ごした数日の記憶を辿る。
「………………」
モニカと過ごした数日の景色に、このような場所は無い。
だが、
「猛の記憶か」
一度だけだが、似たような景色を見た。
記憶と同じであるならば、俺も幽霊の状態なのだが……
「脚もあるし、感触もある」
どうも。猛が植え付けられた記憶のキャストとして、俺はここに存在しているらしい。
となれば……
「どこかに巫女が囚われているという事か」
俺は彼女を助ける決意を、即座に決める。
理由は業火魔王を倒す為である。そして、推測ではあるが、月読巫女を助ける事が、魔王を倒すことにつながるはずだ。
迷わなくていいように、俺は、自身に根拠を提示する。
猛を業火魔王にさせている最大の要因。
それは、彼の大切な人が、彼の目の前で凌辱されている。という記憶違いに起因している。
世界燃やし尽くしたいほどの憎しみを、その記憶が与えているのだ。
誰がそんな醜い事をしているのか。黒幕は誰なのか。非常に気になる点だが、今は時間が惜しい。
「情報が足りないのも事実か」
ともかく。
憎しみを与えてしまうほどの悲しい記憶を、忘れられるほどの平凡な記憶に変えればいい。
夢に見た記憶と同じであるならば、彼は幽霊の状態でどこかにいるはずだ。
「問題は巫女の居場所か……」
夢では、気が付けば巫女の側に居た。どのように移動したのかが一切見えていない。
彼女を強く思うことによって、導かれたとかなんとか言っていた気もするが……
「体感で一時間も満たない俺が、巫女の事を強く思えるのか?」
恋愛は時間じゃない。という格言染みた言葉を聞いたことがあるが……恋愛の何たるかを知らない俺が、たかだか一時間で強く思うことが出来るとは、
「無理だな」
であるならば、別の方法を考えるしかない。
「夢で猛は、何と言っていた?」
思い出せ。記憶力がいい方じゃないことは、自分が一番刺っている。無駄な事ばかり覚えてしまう悪い癖も。
だけど、今だけは。
「…………舟」
確か、舟で渡ったと。
俺は目の前で小波をたてる灰色の液体を見る。
向こう岸が見えるわけではない。が、猛にとって巫女というのは、自分の命を投げ捨ててまで、守りたい存在なんだ。
「泳いででも……!」
俺はブヨブヨと不快な水音を耳にしながらも、身体を濡らしていった。




