3話
何故?
何故モニカは、俺が異世界から拉致された事を知っているのだろうか?
「……悪いが、君が何を言っているのかが分からない」
彼女の部屋に不法侵入している俺が、彼女を疑るのもおかしな話だ。これ以上世話されるのも好きじゃない。
「そんなっ!? 空から男の子が降って来たら、異世界から召喚された勇者だった! ぐらい有名な展開なのにっ!?」
「………………は?」
本当に彼女は何を言っているのだろうか?
「は? じゃないですよっ! いいですか?」
間抜けな声を出した俺の真似をしてから、彼女はさらに続ける。
「確かに、空から降ってきたわけでもなければ、男の子というより中年オヤジですし、魔王を裁く勇者でなく荷物を捌く社会人な訳ですがっ! それでも異世界から来たのには、間違いないですよね?」
色々と修正したい発言も合ったが、
「何を根拠に?」
大筋で合っているため、話を進めることにした。
「根拠はそれです!」
と、モニカは、俺のズボンをピンッと伸ばした人差し指で示してくる。たどっていけば、右ポケットにぶつかった。
「これが……どうかしたのか?」
ポケットの中には、薄い長方形の携帯電話ーーいわゆるスマートフォンが入っている。
「この世界ーーノブリスって言うんですけど、ここには、そんな物は無いんですよっ!」
説得力満点の根拠を提示されてしまった。
長丁場になると思い、俺は丸太が剥き出しになっている床へと腰を下ろした。ただ、今度は正座ではなく胡座だ。
彼女もベッドへと腰を下ろす。
今更ながら。バスローブ姿のモニカは、あまりにも無防備過ぎる。隙間から色々と見えているが、それを隠すつもりがない。
「確かに……俺は地球って星の日本と言うところから、ここに拉致されてきた。その点で言えば、異世界の人間だと言えるし、それは認める」
うんうんと、彼女は俺の発言を聴きながら、ゆっくりと頭を上下に振る。
「だが、君に迷惑をかけるつもりもない」
「え?」
「なに言ってんの? コイツ??」みたいな目で見られても困る。君よりはマトモな日本語を使っている自負があるぞ?
まぁ、なんらかの「トップ」なんだ。頭の良いモニカであれば、
「俺も、いい歳をした社会人なんだ。自分の事は、自分で何とかするさ」
とでも言っておけば納得するだろう。
「甘いですっ!」
が。俺の予想通りに行かず、彼女は言う。
「炭酸が抜けたコーラの如く甘いですっ!」
言うほど甘いだろうか? 美味しくないのは認めるが。
「まず! 貴方は男性ですよねっ!?」
「あ、あぁ。見ての通り、オヤジだな」
俺は両手を広げて肩を竦める。ジョークを放ったアメリカ人の気分だ。
「この世界でっ! いかにオヤジでもっ!! そんな薄い格好で出歩けばっ!!! 間違いなく襲われますよっ!!!?」
語気を強めつつ、迫るように顔を寄せてくるモニカ。現在進行形で襲われている感じがするのは気のせいだろう。
だが、
「カツアゲってやつか? だとすれば、一文無しの俺なら少し痛い目を見て終わりだろう」
「違いますよ! 強姦です!! 貞操の危機ですよっ!!!」
「………………」
ゴウカン? テイソウノキキ??
「その顔は、まっっったく! 理解できていませんね?」
あぁ。全然、理解できていない。
俺が誰かを襲うかもしれない。ってことならば、まだ理解できる。もちろん、襲うつもりなど皆無だが。
「あのですね? 一さんの居た世界がどうだったのかは知りませんが、ここでは男性がかなぁ~~~り! 少ないんですよ」
彼女は両手を懸命に広げて言うが……男女比が偏っていたとしても、俺には関係のある話だとは思えん。
「……その顔は、俺は無関係だ。って顔ですか?」
「よく分かるな」
素直に感心してしまった。読心術の心得でもあるのだろうか。
「……いいでしょう。これだけ親切に教えているのにも関わらず、全然理解する気がないならーー」
彼女はニヤリと口元を上げては、
「ーー外で朝ごはんでも食べましょうか」