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独身貴族はハーレムに屈しない  作者: シバトヨ
独身貴族は魔王に屈しない
29/79

5話

 いったい何が起こっているのか。その疑問を解消するには、情報が少なすぎる。

 今分かっているのは、ここが工場跡地であることと、一緒に授業を受けていた生徒と先生が、俺に敵意剥き出しなことだ。

 正確には、モニカだけは、俺を庇っているような形であるが……。

「この人は(はじめ)さんですっ! 業火魔王(サンライズ)ではありませんっ!!」

 モニカは激高するように叫ぶ。

 『業火魔王』というのは、俺と同じように、異世界から来た人間であり、この世界に災いをもたらした人物の二つ名だ。

 俺が、業火魔王? というよりも、そいつは倒されたはずなのでは??

「退けっ! 首席っ!!」

「退きませんっ!!」

「そいつが業火魔王でなかろうが、関係ないっ! なぜなら、」

「異世界から来た人間だからってっ!! 一さんまでが魔王になるとは限らないじゃないですかっ!!!」

「………………」

 信頼されていると考えれば嬉しいものだが……

「モニカ」

「なんですか? 一さん??」

 俺を必死に庇ってくれている彼女には申し訳ないが、

「俺は特別じゃない。だから、魔王にならない可能性は、「何を言っているんですか?」………………」

 彼女は酷く狼狽(ろうばい)している。呼吸をしているというのに、瞳孔(どうこう)を可能な限り開いている。

 そんな彼女の表情に、俺の声は止まってしまった。

「仕方ない……。首席に麻酔薬! その後、魔王を討つ!!」

 モニカ越しに作戦が聴こえてくる。まるでわざと聴かせているかのようだ。

 だが、

「そ、そんなの……い、イヤですよ…………ねぇ、は、一さん?」

 目の前の少女には聴こえていない。

 仕方がない。

「うぉぉぉおおお!!!」

 俺は気合いを入れて、彼女を突き飛ばした。

 彼女は抵抗することなく、俺の力で簡単に跳ばされる。


 心臓をグッと、握り潰されたような、嫌な気持ちにさせられつつも。


 俺は、彼女を突き飛ばした。


「っ!?」

 今までずれていた焦点が、俺の体当たりによって戻ってくる。だが、体勢を崩された彼女は、混乱から覚めたばかり。そのまま俺から引き離されていく。

「かかれっ!!」

 俺が動いた直後に、大小形状が様々な武器で襲い掛かってくる生徒達。その目には恐怖が宿っているのか、人を殺すことに対する緊張なのか。どちらにせよ、表情は学園の時以上に強張っている。

「うぉぉぉおおお!!!」

 ありったけの声を張り上げて、少しでも恐怖を薄める。

 それでも怖い。死が隣に居たわけではない。いや、隣に立っていたとしても、気が付かない生活をしていたのだ。

 それが。突然、釜を降り下ろしてくる。そんなことになれば、程度はともかく、恐怖を感じないはずがない。

 でも、

 それでも、

「うぉぉぉおおお!!!」

 俺を最期まで信じようとした女性(ひと)を失う恐怖よりは、全然怖くなかった。


「はいはい。ちょっと待ちなさい」


 と、声がしたのと、背中から引っ張られるように吹き飛ばされたのは、ほぼ同時だった。

 「引っ張られる」と形容したが、実際は上半身に(くく)り着けたワイヤーを新幹線にでも引っ張ってもらったかのような衝撃だ。

「一さんっ!!」

 モニカが受け止めなければ、俺は内蔵を潰されていた事だろう。物理的に彼女を無事ではすまなそうであるが……鍛え方が違うと、今は適当な理由で埋めておく。

それよりもだ。

「……学園長」

 アルバート先生が呟いたように、俺を吹き飛ばした張本人であり、先生の頭が上がらない人物。モニカの通っている学園の(おさ)

 まるでローマ法王のような、真っ白なローブを着た女性が立っていた。

「ふむ。事情は大体把握しているつもりだわさね」

 と、こちらに歩を進めてくる学園長。

「ま、待ってくださいっ!」

 突如現れた学園長に、不信感を募らせるモニカ。だが同時に、今の実力では敵わないと理解しているのだろう。俺を支えている体が、小刻みに震えている。

 そんな様子の彼女に、

「もし殺す気なら、とっくに殺してるわさ」

 と、ごもっともな事を軽口で言う。内容は物騒きわまりないが。

「そ、それでも……ですっ!」

 殺されるかもしれない恐怖により、いつもの頭の良さが発揮できていないのだろう。

「モニカ」

 だから俺は、

「なにぃうぉっ!?」

 振り向き様に、彼女の頬を左右から押し潰す。タコのように唇を突き出した彼女の顔を見て、

「ぷふっ!」

 軽く吹き出してしまう。

 そんな俺の様子に、

「は、一さんっ!? 何をするんですかっ!!?」

「す、すまん、ぷふっ」

「謝るか笑うかのどちらかにしてくださいっ!!」

 と、彼女がいつも通りになったところで、

「すまん。こうでもしなければ、最悪の事態を招きそうだったからな」

 と、真面目な口調で告げる。

「は、はぁ……」

 が、

「ぷふっ!」

 やっぱり、耐えきれなかった。

「~~~~っ!!」

 言葉にならない怒りを俺にぶつけようとして着たところで、

「イチャイチャするのはいいけどねぇ? 他所でやってくれんかね??」

 俺も含めて、恥ずかしい思いをさせられた。

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