10話
冷えきった学園長室から出た俺は、再び職員室に向かった。これはこの学園のトップが指示したものであり、俺も職員室以外の場所を知らないため、素直に従う。
まだ授業中であるためか、幅三メートルほどの通路には、人一人もいない。
教室への出入口と思わせる扉が点在するくらいだ。どの扉も固く閉ざされており、俺が開くことは出来ないだろう。開いたとしても、気不味い空気に晒されるだけだ。
「劣っている……か」
自分でも思っていたことだが、いざ他人に、言葉にされると酷く痛む。ハリセンで叩かれたような、ある種の爽快な痛みであれば、ここまでーー肺に油を注がれたような気分には、ならなかったのだろう。
「おっと」
気持ち悪さを感じながら歩いていると、職員室の扉を通りすぎそうになった。
職員室の扉だけは、何故か鋼鉄で出来ている。他の扉ーー学園長の部屋も木材で出来ていたというのに。
俺は右手の甲で軽く扉を小突き、
「失礼します」
と、その扉を押し開きながら口にした。
「では、東棟の三階、一番奥の部屋に向かってください」
口頭で次の行き先を説明された俺は、東棟とやらを目指す。
「目指す」といっても、大した距離は歩かない。せいぜい一分弱だろうか。
敷地の広い学園ではあるが、学舎となる校舎は密集しているようだ。
中央に一番大きな教室棟(教室のみの建物)。北側から西にかけて、扇状にグラウンドや体育館があり、南側はシェフが専属で働いている食堂がある。
そして。今から向かう東棟は、科学薬品やバーナーなどの実験器具が揃っている実験室となってる。
なぜ俺が、こんなにも詳しく学園の中を知っているのか。それは、遊園地や動物園で配られるような地図を持たされているからだ。この、片手で閲覧できる地図。その原本は、ここに通う学生が作ったものらしい。
自分の学生時代を記憶上で閲覧するが、このような手作りの経験は検出出来なかった。
ときどき立ち止まり、地図を確認して歩く。そんなことを繰り返し、徒歩で三分。目的の部屋ーー生物実験室の前まで来た。「実験室」を唱いながら、扉は木造である。火事とかの心配は無用なのか?
ともかく。教室の前でじっとしていても仕方がない。
「着いたらノックを、だったな」
紺色のパンツスーツを着ていた女史の指示を思い出し、俺は軽くノックをする。
「どぉぞぉー」
と、扉越しに聞こえてくる。声の高さから、比較的若そうだと判断した俺は、扉をスライドさせた。




