4話
「巫女様は……?」
木の棒の先端に石を括りつけた、石器時代の槍に似た武具を持つ老兵に、そう尋ねる。
「………………」
老兵は無言のまま、俺を睨みつけ、奥へと繋がる麻の暖簾が掛かる通路の道をあける。
俺は倒れそうな勢いで足を動かし続ける。
奥へと続く通路は、いつもであれば、すぐに壁にぶち当たっているはずだ。
しかし、いつも以上に急いでいるのにもかかわらず、いつも以上に長い通路に感じる。
「巫女様っ!」
やがて見えた円錐形の建築物。その入り口に掛けられた暖簾を荒々しく開き、倒れそうな勢いを殲滅して中へと入る。
「無礼者っ!!」
中に居た兵士達が、俺の乱入によりざわつく。その内の一人が、俺に向かい青銅の刃を突き付けてくる。
「巫女様の御前であらせられるぞっ!!」
本来ならば。ここに足を踏み入れるだけで、首を跳ねられても仕方がない。
しかし、
「我は――――――――であるっ! 巫女様っ!! 銀の兵団が迫っておりますっ!!!」
俺の発言に、ざわつきが酷くなる。このままでは、俺の伝令が巫女様に伝わらなくなる。
俺は死を覚悟した上で、さらに脚を踏み入れる。
「このっ……!」
青銅の刃を振り上げた兵士は、
「静まりなさい」
と、奥の――この国を統べる巫女様の声に、動きを制止させられる。
「み、巫女様っ!? このような俗物に、お姿をさらしてはなりませんぞっ!!?」
「刃を退きなさい。草薙は、民を切るための武具ではありません」
「…………はっ」
巫女様に怒りを納めさせられ、兵士は俺を睨みながらも、振り上げられた青銅の刃を腰に戻す。
「伝令」
「はっ!」
「伝達を述べよ」
俺に向けられた発言の義務。
「はっ! 日の神が姿を隠される方角にて、銀の兵団が陣営を展開っ! こちらは百の兵士をぶつけておりますが、敵が光るのと同時に、半数が姿を消しましたっ!!」
止んだざわつきが、ぶり返す。
それはそうだ。つい一週前。銀色に光る生物に見えない人間が、我々の目の前に現れた。それだけならばよかったものを、それは次々と、我々の同胞達を殺して回り始める。
銀の人間は、我々の武器をはじき、砕き、不能にさせていく。
代わりに、我らの盾は、奴らの光る攻撃には一切無力だった。麻の服が、石の武具に負けるように、石の盾では、あの光る攻撃になす術が無かったのである。
「静まりなさい」
ぶり返した雑音を、再び静めた巫女様の一言。
冷たい風のような声音は、
「国を捨てましょう……」
物悲しげな表情と共に、その響きを運んできた。




