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独身貴族はハーレムに屈しない  作者: シバトヨ
独身貴族は平日に屈しない
13/79

2話

 深夜と呼ぶべきか、早朝と呼ぶべきか。そんな、人によってはどちらともとれるような時間帯に、俺ーー人身(ひとみ)(はじめ)は、独りで涼んでいた。

 こっちの世界に拉致された。その時に身に付けていた物は、こちらの世界でも規則正しく働いてくれている。

 腕時計もその一つであり、今となっては一番稼働している。

「三時か……」

 まさか、悪夢にうなされて起きることになるとは……

「ふぅー」

 肺に溜め込んだ温室効果ガスを吐き出しつつも、俺は首の辺りを(さす)る。ガスが抜けた為か、少しだけ体温が下がった気がする。

 体感温度は下がったというのに、未だに汗は引いていない。首からはべちゃりとする感触。その絞る前の濡れ雑巾を触ったような感触に、布団のことを思い出す。

 俺が寝ていた布団は今、人が汗で描かれている。あのまま放置すれば、俺と同じシルエットの汗染みが出来てしまうだろう。借り物な上に、布団の所有者は女の子――モニカだ。

「日が登ってからだな……」

 本日朝一の仕事を決めたところで、俺はまだ黒い空を見上げる。空気が()んでいるためか、星が点々と輝いている。

「はやぁ~いねぇ~」

「すまない。起こしたか?」

「うぅ~ん」

 細い目を擦りながらエマがそっとベランダに出てくる。やはり、モニカと同い年だということが信じられない。寝間着もキャラクターのような柄が大きく描かれており、身長の低さも相まって、小学四年生と言われても信じてしまうレベルだ。

「……アレっておねしょ?」

「おねしょで描けるのは世界地図だろ? ……あれは俺の寝汗だ」

「ふふっ。だよねぇ~」

 確信犯なのか? 目だけで問うと、エマは軽く笑うだけだった。

「軽くうなされていたから、ニコちゃんが心配してたよぉ~?」

「……そうか」

 うなされているとまでは……内容はおぼろ気だが、印象深かったところもある。


 夢から覚める直前の……背後から襲ってきた、首だけが吹き飛ぶような衝撃。

 それと、黄金色の草原にたたずむ悲しげに笑う女性の姿。




「それじゃあ(はじめ)さん」

 モニカ手製のインスタントを食べた後。モニカとエマから今日と明日は学園での授業があるとのことで、俺に日中の過ごし方をレクチャーしてくる。

 人生の三分の一が社会人歴の俺にとっては、日中に出歩いても問題がないと思う。

 思うのだが、昨日のカルマのように、外で襲われでもすれば抗うすべがない。

 この世界の情報には、まだまだ疎い俺だ。だからこそ、モニカの大袈裟な発言でも、黙って聞いておく方がベター。一番は体験することだろうが……。

「ちゃんと大人しく、良い子にしてるんですよ?」

 俺は小学生か。とは言わずに、

「あぁ、分かってるよ」

 と、あくまでも理解した風を装う。

「お昼はどれでも好きな味を選んで良いですからね?」

「インスタント以外という選択肢は省かれるんだな……」

 まぁ、たまに食べる分には文句無いのだが。

「帰りに買い物してくるからねぇ~」

「おう」

「そうだね。インスタントの買い貯めをしとかないと」

「「………………」」

 俺とエマは、とんでも発言に言葉を失った。


 引き棚が四つあるタンスの三つも占領させておいて、まだ買う気か??

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