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独身貴族はハーレムに屈しない  作者: シバトヨ
独身貴族は異世界に屈しない
11/79

11話

 せっかくの食材が傷んでは困る。そう判断した俺とエマは、そそくさとモニカのアパートへと歩いた。

「そんなに急がなくたって、食べ物は急に腐らないよ?」

 と、モニカは言う。

 確かに、モニカの言う通りでもある。が、

「せっかく着替えて、商店街まで来たんだもん。もう少し見て帰ろうよ」

 という提案には乗れなかった。

 小柄な容姿ではあるが、モニカと同い年であるエマからは、

「ニコちゃんはマイペースな上に天然だからねぇ~」

 と聞かされていたからだ。

 それと、彼女は生の食材をまともに購入した経験があるのかどうか……恐らくない。

 以上、この二点を踏まえると、寄り道をしている間に食材が傷む可能性が非常に高い。


 そして、モニカがブーブー言いながらも、彼女のアパートへと帰ってきた。

「それじゃあ、俺は調理を開始する」

「うん。期待してるよぉ~」

「なにか手伝えることがあったら、遠慮なく言ってね?」

「…………あ、あぁ」

 間違いなく、モニカの戦力は必要ない。そう口にするには、俺の心が弱すぎた。

「一番の手伝いはぁ~、ソファーに座っていることじゃないかなぁ~?」

「それ酷くないっ!?」

 俺の言いたい内容も、エマとなんら変わらない。


 まずは食材の下ごしらえからだ。

 真っ赤な茄子のヘタを切り落とし、縦に半分、さらに半分。あとは、輪切りをするように一口サイズへとーーちょうど扇のような形に切っていく。

 紫の唐辛子は、なるべく細かく切りきざむ。辛味成分であるカプサンシンがあるのかどうかは知らないが、試食させてもらった限りでは、舌を()ままれるような辛味であり、十分だろう。

 長ネギは緑と白とに切り分ける。緑の方は小口切り。白の方は糸のように細長くーー長いと言っても、三センチ弱だがーーきざんでいく。

 野菜の下ごしらえが終われば、あとは炒めていくだけ。俺の中では、中華系の料理は素早くできて簡単。それでいて、そこまで不味くならない。という料理なのだ。

「凄いねぇ~」

 と、素人丸出しの包丁裁きを褒めるエマ。

「こんなのは、練習すれば誰でも出来るようになるさ」

 と、俺は視線を二人に向ける。

「………………」

 若干一名は、絶句しているようだが。インスタントしか作ったことがないならば、包丁の出番は相当に限られるだろう。

「ま、まぁ、あとは炒めていくだけだ」

 フライパン(これも新品同様)に油を垂らし、細かくきざんだ唐辛子を投入。火は中火より少し弱めだ。

「いいねぇ~、いいねぇ~!」

 エマはジュージューと弾け飛ぶ油の音にあわせて、テンションが高くなっている。そこまで期待されると後が怖い。これで不評だった日には、目も当てられないな。

 と、油が赤みを増してきたところで真っ赤な茄子と挽き肉を入れる。入れた直後は、焦げ付かないように箸でかき混ぜる。

 真っ赤な茄子は、きつね色に染まり始めたところで、俺は火を止めて味噌と醤油を取り出す。味噌と醤油は常温で保管されていた。どっちも未開封であるのは、以下略。

 味噌を醤油で解き、フライパンの中に。余熱で手製の合わせ調味料が弾ける。

「ふ~ん。これがマーボーナスかぁ~」

 エマが溜め息を吐き出すように呟く。それに合わせて、鼻を鳴らす音が二つ。

 頬が緩むのを堪えながら、再びフライパンを火に掛ける。あとは、水溶き片栗粉でとろみを付け、きざんだネギを加えるだけ。

「米があれば最高なんだがな……」

 もっと大きなーーそれこそ、業者が出入りするような市場であれば、米が売っているかもしれない。

 ただ言えることは、近くの商店街では取り扱っていなかった。

「まぁ、お米は贅沢品みたいなところがあるからね」

 と、日夜インスタントに済ませるモニカは言う。

 まぁそれはともかく。今回はうどんのような麺と共に食べることになった。この麺は乾麺であり、彼女の家に保存されていた。


 麺が茹で上がり、盛り付けを済ませた。

 見た目は赤色が全面に押し出されているが、味見した限りでは、色のわりにはあまり辛くない。

「いただきまぁ~す」

「……いただきます」

 テンションの違う二人だが、二人ともが箸を持ち、どんぶりに盛り付けられた麻婆茄子うどんを口へと運ぶ。

「「………………」」

 静まり返った部屋の中には、リズムの異なる咀嚼(そしゃく)の音が。

 俺は(まぶた)を閉じて味わう二人の様子を見届ける。

「うん! 合格だね!!」

 と、エマは握り拳から親指だけを立てて、俺の方に向けてくる。「グッド」といったところだろうか。

「……悔しい」

 対して、モニカの方は箸を握りしめて呟き、俺を睨んでくる。歯をギリギリ鳴らしながら睨まれても困るんだが。

「そうか。なら、アルバイトの条件は満たせたようだな」

「うん、そうだねぇ~」

「あとは、クゥアルタさんとオルちゃんが納得すれば、だね」

 モニカの口から出た二人の名ーークゥアルタとオルは、彼女が通う学園の成績上位二位と四位。トップランカーと呼ばれる学年トップファイブに入る実力者でもある。

 ここには居ないが、カルマという不良のような少女も、学園では上から三番目。そう考えると、面識のない二人も、なかなかに曲者なのだろうか。

「まぁ~、クゥアルタさんはぁ~大丈夫でしょぉ~」

「う~ん……どうなんだろうね?」

 二人で意見の割れるクゥアルタという人物の評価。ふと、多重人格者なのかと疑ってしまうが、

「いつもぼぉーっとしてるからねぇ~」

「うん。年に一回しかないランキング戦でも、ぼぉーっとしてたよねぇ」

 マイペースののんびり屋なのだろうか。


「洗い物、ありがとうございます」

 赤く染まった器を、白く洗浄していると、モニカが後ろから感謝を述べてくる。

「別に。大した量じゃないからな」

「ふふっ」

 彼女は鼻で笑い、

(はじめ)さんなら、そう言うと思ってました」

 と、難しい問題が解けたときのように、子供らしく笑った。

「エマちゃんがお風呂から出たら、先に入ってくださいね?」

「いや、俺は「ダメです」……まだ名にも言って「余所者の俺に風呂まで用意されるわけにはいかない。とかなんとか言って、汚れた体で部屋を歩かれても困ります!」……分かった」

 「よろしい!」と言われた俺は、泡を流しきった器を水切りの上に重ねた。

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