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冒険ゲーム

坂巻亜由美は,今年22歳の誕生日を迎える某中小企業のOLである。

明日の休日は、月に一回、(ひそかに亜由美がおこなっているいる”冒険ゲーム" の日だ。

冒険ゲーム・・・それは亜由美が考えた休日の過ごし方の一つであった。

今月は、高校時のセーラー服を着て一日中街なかを散策してみると云う、他人から見れば精神年齢を疑われるような悪戯(いたずら?)である。


次の日は雨だった・・・。

セーラー服を着た亜由美は氷のような霧雨の降る中、無人駅のホームに立った。

一応羞恥心の為、始発を選んだのだが、ホームには二人の男女が何か思いつめた表情で電車を待っていた。

年齢のわりに、童顔の亜由美にセーラー服はよく似合っていて、二人の男女が亜由美を見ても違和感は感じなかったようだ

女の方は鞄を大事に胸に抱えて、その青白い顔には生気は感じられない。また、男は人生に疲れた感じの中年で、こちらも普通でない何かが亜由美には感じ取れた。

ホームに滑り込んで来た電車に、女は一両目に亜由美と中年の男は二両目に乗った。

乗客は誰もいなかった。

”さあ、冒険ゲームの始まりだわ・・。”

亜由美は心の中で叫ぶと、中年の男を垣間見た。

男は疲れた顔で転寝うたたねをしていた。

雨は少し強めになり、電車の窓を叩きつけていた・・・。

電車は見返り海岸という駅に着いた。ここで、5両編成の電車と連結して快速となり、都会へと電車は進む。

「あっ、あの女の人だわ・・・。」

亜由美が何気なく外を見つめていると、一緒の駅から乗った女が改札口を抜けて行くのが見えた。

亜由美は中年の男に眼をやった。

よだれを垂らしながら、船を漕いでいる・・・・・。

亜由美はその姿に、何故どこかユーモラスさを感じて、一人ほほ笑むのであった。

しかしこの駅で降りた女が、その鞄に男の生首くびを入れて持ち歩いている事。同じ車両で転寝をしている中年男が、老舗しにせのホテルの屋上から転落死する事など、今の亜由美には分ろうはずはなかった・・・。

まして、自分の身にこれから起ころうとする恐怖の体験など、考えもしてなかった。


「ここ、いいですか・・・?」

その言葉に、亜由美はニヤけていた顔を慌てて引き締めた。

隣に座ったのは、理知的な感じのする二十歳前後の色白の美人だった・・。

連結が終り電車は動き出した・・・・

・・・・・雨は本降りになっている・・・。

「あなた、岡倉女子高?!」

 「えっ・・・!」

隣に座った女性が突然聞いて来た。

「そのセーラー服、岡倉女子高でしょう?!私は卒業生なのよ。」

女性は懐かしい笑顔を見せた。

「そして今は、岡倉女子短大の二年生なの・・・今、短大は休校中だけどね。」

亜由美はニュース等で見た、岡倉女子短大の蒸発事件を思い出していた。

「校長先生が事件に関係してると、ある雑誌で読んだんですけど・・?」

亜由美は岡倉女子高から、岡倉女子短大へと進んだ事から、女子短大の蒸発事件には興味を持っていた。

女性は少し首を傾けながら、独り言のように呟いた。

「・・・分からないけど、佐伯校長はもう駄目ね・・。」

亜由美はその女性から、かすかにラベンダーの匂いを嗅いだ気がした・・・。

「本降りになったわね。」

女性は車窓から外を見ながら立ち上がった。

空気が動いた・・・。

・・ラベンダーの香を今度ははっきりと亜由美は感じるのであった。

次の駅でその女性は電車を降りた。

亜由美も何かに操られるかのように、女性の後を追い電車を降りた。

”岡倉女子短大前 ” 駅名はそう読みとれた・・・・・。


二人は喫茶サンライトで、モーニングのトーストを頬張っている。

自分の後について駅を出て来て、傘もささずうろうろしていた亜由美を、喫茶店に誘ったのであった。

二人は、自分自身の事について名乗り合った。

女性の名は村田 愛。女子短大の寮生で、今日は寮に置いてある自分の荷物の残りを、取りに来たそうだ。

亜由美は、自分は岡倉女子高の二年で来年卒業だと嘘をついた。

愛と名乗った女性は、完全に信じたようであった。亜由美は心の中で”舌”を出し、今日はこの女性に係わって見ようと思うのであった。

「私これから寮に行くけど、貴女あなたどうするの・・?」

愛はハンカチを出し唇を二・三度押さえながら、亜由美に言った。

「私もその寮を見てみたいわ。」

愛は少し怪訝な顔をしたが、「来たって面白い物はないわよ。」と言って、亜由美に微笑ほほえんだ。

寮は、今総務部が管理しており寮生の姿はなかった。

雨は本降りになり、合い合い傘で来た二人は、ずぶ濡れになっていた。

「ここが私の部屋よ・・。」  そう言って愛はタオルを亜由美に差し出した。

微かにラベンダーの香りを亜由美は感じた。机の上に小瓶が置いてある。

「ああ・・あれはアロマ香みたいな物よ、理事長から寮生への贈り物なの・・。」

亜由美の視線の方向を見ながら、愛が説明した。

「ふ〜ん・・・アッ、お手洗いは何処?」

髪をタオルでふきながら亜由美がわざとらしく聞いた。

「ここを真っすぐ行って、付き辺りを左よ。」

荷物をテキパキと片付けはじめ、愛は背中で返事をした。

亜由美は付き辺りを右に行ってロビーに出た。お手洗いと言ったのは、口実で蒸発事件が相次いだこの寮を探検!?したかったのである。

ロビーの奥で人影が動いている。亜由美は柱の陰にかくれて、様子を伺っていた。

誰かが壁に掛けている絵画みたいなものを、いじくっている。

”何をしているのかしら・・?!”

暫く見ているとその人影は、こちらの方向に歩いて来た。亜由美は息をひそめて柱の陰からその人影の姿を追った。

”牛乳瓶・・・?!。”

亜由美はもう少しで吹き出しそうであった。

その牛乳瓶のそこみたいな、メガネをかけた男が自分の前を通り過ぎ見えなくなると、亜由美は男が何かしていたところに行ってその絵画を見た。

「ゴッホの向日葵の摸倣画だわ・・。あら、これは何かしら?。」

亜由美は足もとに落ちてあった細長い箱みたいなものを拾い上げた。

「リモコン・・・?」

亜由美はその箱に付いていたボタンを押してみた。

ゴッホの向日葵が、魔女狩りの絵に代わって行くのだった。その拷問されている魔女は、ジッと亜由美を見つめている・・。

「これは、・・・いったいどう云う事だろう?!」

亜由美は首を傾げた。

・・突然ラベンダーの匂いがして、亜由美は軽いめまいと吐き気をもよおして来た・・・。

「見たな・・・・!?」

牛乳瓶の男が亜由美を睨んでいる。どうやらリモコンを落としたのに気づき、探しに戻って来たのだろう。

「わ・・私は・・・な、何も・・。」 亜由美は後ずさりした。

牛乳瓶の男は黙って、ポケットから折りたたみナイフを取り出し顔を歪めた。


「あの子どうしたのかしら?」

愛はトイレから帰ってこない亜由美を心配していた。ふと窓から外を見ると雨は相変わらず激しく降っている。

「亜由美・・・?!」

雨の中をセーラー服の女が必死で走っている。傘はおろか、靴も履いていないように見える。

後ろから何者かが追ってきている。亜由美は人通りのない山の方へ向かって逃げて行く。

”亜由美・・何があったの?。”

愛は心の中で呟き部屋を飛び出した。

「どうしたのかね・・・?!」 愛の目の前に一人の老紳士が立っていた。

「河口理事長?!。」

写真でしか見た事はないが、岡倉女子短大の理事長河口に間違いはなかった。

「亜由・・いえセーラー服の子が、今、誰かに追われて・・・。」

愛は今見たことを説明した。河口理事長は厳しい顔を愛に見せると「あの女の子・・ロビーにかけてあった絵画を見ていたら、急にナイフを出して暴れ出して外に飛び出した・・・でも大丈夫だよ、私の秘書が後を追っているから心配しないでいいよ・・・。」

河口は優しい顔に戻ってそう愛に説明した。

愛は少し安心して河口に微笑みを返した。


”キャァァァァァァ〜ァァァ・・・。”


「今、悲鳴みたいな声が・・・!?」 愛は河口を見た。

「悲鳴?!・・私には聞こえなかったよ・・。雨の音ですよ。」

河口は顔を歪めながら、愛に向かって言った。

「あなたは何も心配しないで、早く荷物をまとめて帰りなさい・・・!。」

♪♪〜〜

その時、河口の携帯が鳴った。

河口は愛に背を向け携帯を取った。

「うん、そうか・・・やった・・・埋めろ・・・雨が・・・残すな・・こちらは・・・そうだ・・・。」

断片的に携帯のやり取りが、愛の耳に入ってきた。

携帯を切ると、河口は愛の方に振り向き、やさしい口調で言うのであった。

「今の会話はなしを聞きましたね・・・!?」

愛は左右に首を振りながら、二・三歩後ずさりした。



雨は、愛と亜由美の存在など関係ないように、より一層激しさを増していた・・。










 冒険ゲーム


      (完)















雨の物語は、一応この三話で完結です。後は、番外編として、2〜3話書いてみたいと思います。お暇な時にでも読んでください。

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