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見返り海岸の女

岡倉女子短大の、三人の寮生と寮長が、煙のように忽然と消えた事件は、ブラックホールか・・!?と、世間を震撼させていた。

この物語は、そんな中で起こった、三人の男女の数奇な運命を描いた物語である。


三月も中頃に入った日曜日。

氷のような雨が降っていた・・・。

新藤千恵子(29)はアパートを出て、JRの無人駅で電車を待っていた。

ホームには、いかにも人生に疲れた感じの中年男と、セーラー服の女子高生が電車を待っている。

三人とも氷のような霧雨の中、思い詰めた様な顔で傘もささずたたずんでいた。

時間は午前五時過ぎ、周りはまだ暗く田舎の駅周辺は三人の人間以外は、まだ深い眠りについているかのようであった。

二両編成の電車がホームに滑り込んで来た。

新藤千恵子は、大きめな鞄を胸に抱きしめて一両目に、他の二人は二両目に乗り込んだ。

一両目、二両目ともまだ客は乗っていなかった。平日であったなら、朝早い学生たちが少しは乗っているのだが、日曜の朝はその姿も無い。


「海だ・・・。」

電車に乗って2時間も経ったろうか、千恵子の前に海岸線が広がって来た。

”・・次は、見返り海岸・・。”

千恵子は重い腰をあげた。自分の人生の終着点に適した地名と思われた。

駅前に出て千恵子は天を仰いだ・・・・・。

雨が千恵子の顔を絶え間なく叩いていた。千恵子は身震いして思わず呟いた

「・・大樹だいき。」

千恵子と将来を誓い合った男の名であった。千恵子を捨て、社長の娘と婚約をした・・・今は憎しみしか浮かばない名だ。

「見返り海岸まで・・。」

千恵子はタクシーに乗り込み、行き先を告げた。

「ひとりで気ままな旅行ですか?!」 タクシーの運転手は聞いた。

「・・・・・。」

「・・その鞄、ずいぶん大切なものが入って居るんですね。」

「・・ええ・・今までの私の人生が・・」

千恵子は言って、鞄をよりいっそう胸に抱きしめるのであった


見返り海岸という看板の柵を千恵子は乗り越えた。

氷のような雨は本降りになり、海は荒れ狂っていた。岸壁の先に傘もささずに佇んでいる女性を千恵子は見た。

「先客がいたのか・・。」 千恵子は雨に濡れながら鞄を胸に抱きしめた。

千恵子の気配に気付いたのか女性は振り向いた。

「私は岡倉女子短大の神崎真理・・。」女性はニヤリと不気味な笑みを千恵子に浮かべ、岩壁から荒れ狂う海に身を投げた。

千恵子は一瞬、自分の分身を見ているのかと思った。

”ドサッ” 千恵子の手から鞄が落ちた。その拍子に鞄が開き、男の生首が転げ出て来た・・・・・。

千恵子が愛した男の首であった。”最期にもう一度だけ会いたい”そう言って千恵子は、山下大樹を自分のアパートに誘い、夜中に寝ている大樹を包丁で滅多刺しにして殺害し、首を切断して鞄に詰め込み、死への旅路へと向かったのであった。


氷のような雨はより一層強さを増して、千恵子とその生首を叩き続けているのであった・・・。

「キャァ〜・・!!ひ・・人殺し・・・。」

観光客だろうか、千恵子の後方で女の悲鳴が聞こえ、雨の音に紛れながら靴音が遠ざかって行く。

千恵子は雨にうたれながら、自分が愛した男の生首を胸に抱きしめたまま立ち上がった。

「ち・・ち違う・・私が突き落したんじゃない。あ・・あの女性は、自分から海に飛び込んだのよ・・・。」

千恵子はふらふらと、自分が乗り越えて入ってきた柵を越え、遊歩道に戻った。

まだ時間が早く、雨が降っているため観光客はまばらだが、若いアベックが千恵子を見た。

「女の子が、海に飛び込んだのよ。それを、先程の人が勘違いしただけなの・・・。」

千恵子は自分を凝視している男女に必死な声で叫んだ。

若いアベックは二・三歩後ずさりしながら、奇声を上げてその場から走り去った。


・・・雨はまた一段と激しさを増していた・・。

千恵子は生首を胸に抱きしめたまま、遊歩道をフラフラと歩きまわっている。


「・・ちがう、私が突き落したんじゃない・・・。」




 第一話 見返り海岸の女


                 (完) 





  









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