彼女は果物屋さん
とは言ったものの、どう探すべきか。
気が付けば俺は1時間も家の近くの商店街の表通りから裏通りまで何周もしていた。
何に悩むと言われるともちろん仕事選びなのだが、その仕事の選び方で苦戦していた。
家との距離か?週に何回入らせてもらえるか?休みは最低でも週2回はあるのだろうか?やっぱり時給?職場の雰囲気?…どれも大事だ。
だがしかし、この条件を全て腹一杯に満たしてくれる職場などあるわけがない。
『ゲームってボスキャラの城にたどり着いたはいいものの、その前のモブキャラ倒しが面倒くさいんだよなぁ…しかも割と体力持ってかれるし』
この例え方はきっと上手くもなんともないであろう。だが、こんなくだらない思考を生むほどに何も浮かんでこない。
…雇ってもらいやすく、仕事覚えてしまえば楽な定番のコンビニでバイトでもするか?
でも今って水道費とか配送とかウェブマネーとか仕事量増えすぎて俺なんかじゃ過労死しそうだよな。
この弱小根性が情けなさすぎる。
『その辺のコンビニでタウンワークもらってから探すか』
そう思って、俺は歩いていた方面の逆を向いてコンビニに向かおうとした。
さほど急でもなくスピードも出てはいなかっただろう。
それでも、俺は何かにぶつかった。
結構強い衝撃だ。まさかの通り魔!?希望のないダメフリーターには死を!ってか!?あんまりだぜそりゃ… ーーってあれ?痛くない
コメディ番組でこの勘違いシーンを撮ればお茶の間を笑わせることが出来そうだ
俺がぶつかったのは、1人のJK…いや、女子高校生だった。
なぜ言い直しか?俺はこの単語があまり好きではないからだ。最近の若い連中は色んな単語を生み出しては常識化しようとしていく。最初こそ嫌がった大人や、反対派の若者も多かったのでは無いだろうか?
今では誰もが、若者発信の単語をさり気なく使ってしまう時があるのではないだろうか。
おっと、話がズレすぎて収集がつかなくなりそうだ。
『すみません…急いでて…本当にごめんなさい』
あまり長いとは言えない制服のスカートを整えて彼女は俺に謝った。
俺もワンテンポ遅れてから、しっかりとした謝罪を入れた。
まるでマンガで描いたような出会い方だ。美人系でもあり可愛い系でもある整った顔と、それを更に美しく見せる黒髪に俺は見惚れてしまった。
『…バカな…女子高校生に惚れてしまうなんてそんな…悪くないじゃないかっ!!』
完全にド変態である。
『本当にぶつかってしまってごめんなさい!それでは!急いでいますので!失礼します!』
『えっ!?』
丁寧な謝罪とお辞儀を終え、彼女は走り去ってしまった。人生こんなもんだ。運命の人がいるなら早く連れてきてくれ。できればお金持ちで可愛らしい見た目の女性を…。家事全般は俺に任せてもらって、金銭面では是非!全体重を乗せたい!
ーーーー『さて、タウンワーク取りに行きますかな』
なんとなく、数分経ってもさっきぶつかった彼女のことを忘れられないでいる20歳の変態フリーター大塚望だった。
ーーーーー時間は進んで帰り道ーーーーー
商店街を抜けた先に俺のボロアパートはある。
この街は何にもないけれど、ここの商店街はいつも賑やかだ。他の地区では昔は賑やかだった商店街も今ではシャッター通りなんて呼ばれるところも少なくはないとか。
…ここは変わらないでいてくれよ。俺みたいに。
コツンーーー。
『コツン?なんだ?』
と足元を確認する。そこには綺麗な黄緑色のリンゴが転がっていた
どうやら、果物屋の商品が落ちて足元へ転がってきたらしい。まったく、俺を選ぶとはセンスの塊リンゴちゃんだ。
『ごめんなさい!それウチのです!』
『痛んだりしてないか心配ですが、踏まずには済みました。どうぞ…ってあれ?数時間前の!』
果物屋の売り場から取りに来てくれたのは、数時間前にぶつかった美少女高校生だった。
おっわぁぁあ!!!これって運命ってやつだろ。
絶対この後俺のこと好きになってくれるパターンじゃねぇか。良い容姿で産んでくれてありがとう…お母様!!
とりあえず連絡先交換から仕掛けるか?
…どうでも良い質問だけど、この疑惑が頭から離れなさそうだから先に聞くか。
俺は彼女にお店の前で落ちたリンゴを手渡して質問した。
『このリンゴ黄緑色のだけど、あんまり美味しそうに見えないね』
質問されるとおもっていなかったのか、彼女は目を丸くして空白を僅かに作り返答してくれた。
『これは青リンゴなんです。見た目は赤リンゴの方が美味しそうに見えるってお客様もおっしゃられますが、実は青リンゴは赤リンゴに負けないくらい美味しいんですよ』
笑顔で返してくれた彼女の瞳に、俺は完全に惚れてしまった。…昔から惚れやすいけど。
彼女はさらに驚く行動をとった。
『食べてみてください!』
女子高校生が変態フリーターの服の袖を掴み
お店の中へと招き入れた。
心拍数が上がる。耳が赤いのが鏡なしでも伝わってくる。幸せだ。もしかして本当に食べれるのか?
彼女はお店の奥の水道でリンゴを一度洗い
手際良くまな板の上でリンゴを切ってくれた。
『どうぞ!』
目の前にはバラバラになったセンスの塊リンゴちゃんが美味しそうにしている。
こんな可愛い子が切ってくれたとしたら俺は食べるしかないじゃないか!!
『いただきます!』
…美味い…美味い!
果物を切立てで食べたのは何年ぶりだろうか、最近はインスタント食品ばかりに頼っていたからか
果物の味に新世界を見た。
リンゴ特有の甘い果汁があり酸味は控えめ、普通のリンゴはこんなもんだったのか、少し食感が変わっている気がするがそれもこの味との相性が良く本当に美味しい。
バカにしてすまなかったリンゴちゃん。
『すこし、普通のリンゴよりモシャっとしません?』
彼女は俺の心の中を除いたかのように尋ねた
『やっぱそうなの?でもそれが良い!』
微笑む彼女
『でしょ。このリンゴは王林っていうんです甘くて良い香りのする私も大好きなリンゴの1つです!』
これが俺と彼女が仲良くなるきっかけの1日だった。