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魔王の拠点です

 ティコさんに弟子入りして10日が過ぎた。


「終わりました! 終わりましたよティコさん!」


 この日の昼下がり、深呼吸で吹き飛んだ家の改修作業が終わりを迎えた。


 できれば当日中に終わらせたかったけど、下手すると大惨事だからな。力加減に気を遣いすぎるあまり、10日もかかってしまったのだ。


 でも時間をかけた分、仕上がりには自信がある。


 ティコさん、気に入ってくれるといいんだけど……。



「へえ、どれどれ?」



 昼食を作っていたティコさんは、外に出るなり家をまじまじと眺めた。


「ど、どうですかね?」


「うん。とても良くなったんじゃないかな。私が建てた家より立派だよ」


「ほんとですか!?」


「本当だとも。不器用なこの私が、板を貼り合わせて作った家だからね。築12年だし、いつ壊れてもおかしくなかったのさ。きみが我が家を壊してくれて大助かりだよ」


「ティコさん……」


 まさか、こんなに褒めてもらえるなんて……。


 家を壊したときはどうなることかと思ったけど、気に入ってもらえてなによりだ!


 それにしても築12年か。


 てことは、ティコさんは12年間この森で暮らしてるってことだよな。

 

「ティコさんはどうしてひとり暮らしをすることにしたんですか?」


 ティコさんの人生を知ることで、魔力を高める手がかりが得られるかもしれない。


「かつての私は、きみとそっくりだったのさ」


「俺とですか?」


 そっくりだと言われるのは光栄だけど、そんなに似てるかな?


 ティコさんは落ち着いてるし、魔力が尋常じゃないし、女性だ。


 俺とは正反対な気がするけど……。



「私はね、幼い頃から死に物狂いで修行をしていたのさ」



 あっ、そっくりだ。


「どうして修行を?」


「修行すればするほど新しい魔法を使えるようになるのが嬉しくてね。のめりこんでしまったのさ。そして気づいたとき、私は強くなりすぎていたんだよ。魔法騎士団からしつこく勧誘されるほどにね。気持ちは嬉しいけど、私は自分の時間を大切にしたかったのさ。だから思い切って秘境で暮らすことにしたんだよ」


「その当時からシャルムさんとは仲が良かったんですか?」


「シャルムと出会ったのは5年ほど前だよ。なんでも、この森には珍しい野草が山ほどあるらしくてね」


 薬の材料を集めに来たシャルムさんは、この家を空き家だと思ったようだ。


 さっそく薬を調合しようと家に入ったところ、ティコさんと鉢合わせたのだとか。


「シャルムはこの森を気に入ってね。しばらくここで調合をしたいと言いだしたのさ。私は干渉されるのは苦手だけど、ひとりが好きというわけではないんだ。だからシャルムを受け入れたのさ」


 シャルムさんが調合した薬は、いまでも家に残っているらしい。


 捨てていいとは言われたらしいけど、友達が作った薬だ。捨てるに捨てられなかったのだろう。


「それって、どういう薬なんですか?」


「どうだったかな。説明された記憶はあるんだけどね、ほどんど聞き流してしまったのさ。……試しに飲んでみるかい?」


 ティコさんが冗談めいた口調で言った。


「俺が飲んでも効果はないと思いますよ」


「おや、どうしてだい?」


「修行のしすぎで、薬が効きにくい体質になったんです」


「修行をしすぎると、そんなことになるんだね」


 俺の体質を知り、ティコさんは落ち着いていた。


 俺が身体を鍛えすぎて薬が効きにくい体質になったように、ティコさんは魔力を鍛えすぎて強靱な精神力を手に入れたのだ。


 てことは、魔法使いとしての修行をしすぎると俺もティコさんみたいに冷静沈着な性格になるのかな?


 ……どうだろ。まったくイメージが湧かないんだけど。



「そろそろ焦げるわ」



 ティコさんとの会話を楽しんでいると、ノワールさんが窓から顔を出して報告してきた。


 どうやらティコさんに頼まれて料理の火を見ていたらしい。


「さて、どうするね? 疲れているようなら修行は明日からにしてもいいよ」


「できれば今日から修行に取りかかりたいです!」


「ほんと、きみは昔の私によく似ているよ。……だけど、その元気がいつまで持つかな?」


 俺を試しているのだろう。急に怖がらせるような口調になったけど、望むところだ!


「大魔法使いになるためなら、どんな修行にも耐えてみせます!」


「良い心がけだね。だったら、きみには私以上に過酷な修行をしてもらうよ」


「ティコさんより過酷な修行……ですか?」


「うん。当時の私と違って、きみの魔力は微々たる量だからね。そうでもしないと魔力は上がらないのさ。それとも、つらい修行は嫌かい?」


「いえ、嬉しいです!」


 ティコさんは俺のことを真剣に考えてくれていたのだ。


 じゃないと過酷な修行なんてオリジナルの訓練メニューを用意してくれるわけがない。


 モーリスじいちゃんといい、ティコさんといい、俺は師匠に恵まれてるな。



「火の手が上がったわ」



 ノワールさんが窓から顔を出して、淡々と報告してきた。


「おや、話が長くなりすぎたみたいだね。年を取ると、ついつい話してしまうようだ」


「貴女はまだ若いわ」


「嬉しいことを言ってくれるね。ところで、火はそのまま放置しているのかい?」


「近くに水入りのボトルがあったから、それをかけて消したわ」


「うん。いい判断だね。さすがに改修作業を終えた直後に家が燃えるのは喜べないからね。だけど、昼食はだめになってしまったね?」


「食べようと思えば食べられるわ。ところどころ無事だもの」


「だ、そうだけど……どうするね? 焦げたパンケーキは嫌いかい?」


「お腹は減ってませんし、できればすぐにでも修行に取りかかりたいです!」


 ティコさんはにっこり笑う。


「きみが修行を望むなら、私はそれを叶えるまでさ」


 そう言って、俺にきびすを返す。



「さあ、私についてくるといい。これからきみを修行場に――かつて《闇の帝王ダーク・ロード》が拠点としていた洞窟に案内してあげるからね」



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